オルド・マリク

オルド・マリク：ジョチ・ウルスの謎多きハン

オルド・マリク（生没年不詳 - 1361年）は、ジョチ・ウルスの「大紛乱時代」にハン位についた人物です。しかし、彼の生涯や事績については、文献史料が乏しく、不明な点が多く残されています。本記事では、断片的な情報からオルド・マリクの実像に迫ります。

即位の経緯

1360年、ジョチ・ウルスは内乱状態に陥り、シバン家のヒズルが首都サライを占拠してハンを称しました。しかし、翌1361年にはヒズルは息子のテムル・ホージャに殺害され、テムル・ホージャもまた有力者ママイとの対立の末に命を落とします。その後、サライでハン位に就いたのがオルド・マリクでした。

ジョチ・ウルスで鋳造されたコインには、君主名、発行年、発行地が刻まれています。「ūldū malik」という君主名、ヒジュラ暦762年(1360年-1361年)、サライ・アル・ジェディード(新サライ)もしくはアザク(アゾフ)発行と記されたコインが発見されており、このことから、オルド・マリクはテムル・ホージャの死後、1361年中に即位したと考えられています。

短期間の治世

コインの出土状況を分析したシドレンコは、オルド・マリクの在位期間は非常に短く、1361年の6月から8月頃の約1ヶ月間であったと推測しています。また、彼の支配領域はサライ・アザク一帯に限られていたようで、同時期にはグリスタン(アフトゥバ川流域)でヒズルの弟ムラードが、西方ではママイがそれぞれ独自の勢力を維持していました。

史料における記述の少なさ

オルド・マリクの先代であるヒズルやテムル・ホージャ父子の事績は、ロシア語史料やイスラム史料に比較的多く記述されているのに対し、オルド・マリクに関する記述は極めて少ないのが現状です。イスラム史料の『ザファル・ナーマ』や『伝記の伴侶』などの「ジョチ・ウルス君主一覧」にも、オルド・マリクの名前は見当たりません。

唯一、『ムイーン史選』に「ケルディの後、ヒズルの前」に即位した人物として「オルダ・シャイフ」の名が挙げられており、このオルダ・シャイフがオルド・マリクと同一人物であると考えられています。

『ムイーン史選』によれば、オルダ・シャイフは「白帳ハン([オルダ・ウルス]]君主)」のエレゼンの息子であり、「ケルディの後にパーディシャー]となったが、彼もまた殺された」とされています。しかし、『ムイーン史選』の[[ジョチ・ウルスに関する記述には誤りが多く、史実としてそのまま鵜呑みにすることはできません。

系譜の謎

ティムール朝で編纂された『高貴系譜(ムーイッズル・アンサーブ)』には、「オルド・マリク」という名のジョチ家の王族が記録されています。それによれば、彼はジョチの13男であるトカ・テムルの子孫にあたるとされています。

この『高貴系譜』の記述は、『ムイーン史選』の系譜よりも信憑性が高いと考えられていますが、このオルド・マリクが「テムル・ホージャの後にハン位に就いた人物」であるとは明記されていません。年代的な問題から、この比定に反対する学説も存在します。

もし『高貴系譜』のオルド・マリクが同一人物であるとすれば、彼にはトゥルケン(turkān)という娘とクトルク(qutluq)という息子がいたことになります。

最期

オルド・マリクの最期については、詳しいことは分かっていません。しかし、コインの出土状況から、1361年夏頃に亡くなり、その後をケルディ・ベクという王族が継いだと推定されています。

オルド・マリクは、ジョチ・ウルスの激動期に短期間のみハン位にあった人物であり、その生涯は謎に包まれています。今後の研究によって、彼の事績がより明らかになることが期待されます。

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