テムル・ホージャ

テムル・ホージャ：ジョチ・ウルスの短命なハン

テムル・ホージャ（生年不詳 - 1361年）は、ジョチ・ウルスのハンの一人です。シバン家の出身であり、父であるヒズル・ハンを弑逆してハン位を奪いましたが、その治世はわずか5週間と短く、最終的にはクリミア地方の有力者ママイによって倒されました。

ハン位簒奪と短命な統治

テムル・ホージャは、シバン家から初めてハンとなったヒズル・ハンの長男でした。しかし、彼は父の在世中から陰謀を企て、1361年に父を殺害してハン位を奪いました。この行為は、当時の年代記にも「父を殺した顔の黒いハン」と記録されています。

テムル・ホージャの統治期間は非常に短く、わずか5週間でした。その間、彼は新サライでコインの鋳造を行ったことが知られていますが、政治的な基盤は非常に脆弱でした。

ママイとの対立と最期

テムル・ホージャの政権は、ジョチ・ウルスの有力貴族たちから最初から敵視されていました。特に、クリミア地方を拠点とする有力諸侯のママイは、アブドゥッラーをハンに推戴し、テムル・ホージャに対抗しました。これにより、ジョチ・ウルスの右翼（バトゥ・ウルス）は、西半を支配するママイと東半を支配するシバン家の間で内紛状態に陥りました。

ママイに対抗する力を失ったテムル・ホージャは、ヴォルガ川の東に逃亡しましたが、そこで殺害されました。彼の死後、サライの支配者の地位はオルド・マリクという人物が継いだとされていますが、史料が不足しているため、この間の経緯については不明な点が多いのが現状です。

シバン家とジョチ・ウルスの混乱

テムル・ホージャの短い治世は、ジョチ・ウルスの混乱期を象徴する出来事の一つです。彼の死後も、ジョチ・ウルスではハン位を巡る争いが絶えず、最終的には国家の分裂を招くことになりました。

シバン家は、ジョチ・ウルスの有力な家系の一つでしたが、テムル・ホージャの登場以降、その勢力は衰退していきました。以下に、シバン家の系図の一部を示します。

ジョチ太子 (Jöči ＞朮赤/zhúchì,جوچى خان/jūchī khān)
シバン(Šiban ＞شيبان/šībān)
カダク(Qadaq ＞قاداق/qādāq)
トレ・ブカ(Töle buqa ＞تولا بوقا/tūlā būqā)
マングタイ(Manγtai ＞داربو/mānkqūtāy)
ヒズル・ハン(Hiḍr qan ＞خضر خان/خضر خان)
テムル・ホージャ(Temür khwaja ＞تیمور خواجه/تیمور خواجه)

テムル・ホージャの生涯は、ジョチ・ウルスの衰退期における権力闘争の激しさを物語るものであり、彼の短い治世は、その後のジョチ・ウルスの運命を大きく左右することになりました。

参考文献
赤坂, 恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
* 川口, 琢司「キプチャク草原とロシア」『中央ユーラシアの統合 : 9-16世紀』岩波書店、1997年

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