オルフェウス (ギュスターヴ・モロー)

オルフェウス（ギュスターヴ・モロー）

『オルフェウス』は、フランスの象徴主義の画家ギュスターヴ・モローによって1865年に制作された油彩画であり、彼の代表作の一つです。この作品は、ギリシア神話の音楽家オルフェウスの悲劇的な物語を基にしており、その内容は多くの人々に親しまれています。

主題

オルフェウスは、音楽と詩の神秘的な存在です。彼は芸術の女神ムーサの一人であるカリオペまたはアポロンの子として描かれ、その歌声は自然さえも感動させたと言われています。物語の中心には、妻エウリュディケを蛇に咬まれて失ったオルフェウスが冥府へ下り、彼女を取り戻そうとするエピソードがあります。ハデスを説得し、見返りを条件にエウリュディケを連れ出すことに成功しますが、地上に戻る途中に振り返り、彼女を再び失ってしまいます。その後、ディオニュソスに捧げられた彼の悲劇は、画家によって見事に形にされています。

作品の構成

この絵画では、一人の少女がオルフェウスの首を竪琴の上に置き、大切に抱え、目を閉じた彼の顔を見つめています。少女の表情は、彼女の敬愛や哀悼の念を強調しており、深い影が印象的で、全体にメランコリックな雰囲気を醸し出しています。背景には岩山や流水が描かれ、少女の装飾的な衣装は華やかさを添えています。少女は、緑や青のドレスに赤と黄色の布を巻きつけ、彼女の背後には果実が実ったレモンの木があります。こうした画面の構成は、モローが持つ独特な幻想的で不穏な雰囲気を濃厚に表現しています。

着想の背景

19世紀のフランスでは、オルフェウスをテーマにした作品は一時的に忘れられていましたが、ロマン主義の影響で再評価されることになります。モロー自身は、サロンの目録に「トラキアの岸辺に引き揚げられた少女がオルフェウスの首と竪琴を恭しく拾う姿」を描いたと記しており、この物語自体は古典文献には見られない創作と推測されています。

制作の過程

モローはイタリアのルネサンス芸術から大きな影響を受け、作品を育んでいきました。特に彼のオルフェウスの首は、ミケランジェロの彫刻に基づいているとも指摘されています。制作の初期段階では、少女がこちらに向かって身を屈める姿が描かれている素描もありましたが、最終的には少女を反転させた構図が選ばれました。

評価と影響

『オルフェウス』はサロンで絶賛され、国家に買い上げられました。この作品は後の象徴主義絵画に多大な影響を与え、多くの画家たちが模倣や継承を試みています。また、モローはこの作品を通じて自身の独自のスタイルを確立し、幻想的でありながら神秘的な要素を多く含んだ作品群を生み出しました。

この作品は現在、パリのオルセー美術館に展示されており、その美しさは見る者に深い感銘を与え続けています。

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