オンゲ族

オンゲ族：アンダマン諸島の先住民族

オンゲ族は、インド領アンダマン諸島に居住する、独自の文化を持つ先住民族です。数万年にわたり外部との接触をほとんど持たずに、狩猟採集を中心とした生活を送ってきました。

歴史的背景

アンダマン諸島の地理的特性から、オンゲ族は他の部族と同様に孤立した環境で独自の文化を育んできました。外部との接触が限られていたため、数万年もの間、独自の生活様式を維持してきたと考えられています。

言語

オンゲ族は、アンダマン諸島に特有の言語であるオンゲ語を話します。この言語は、インド・マレー系の言語とは全く異なる系統に属しています。オンゲ語はオンガン語族に属し、かつては小アンダマン島全域や周辺の島々で広く話されていましたが、19世紀以降のイギリスの進出やインドからの入植者の増加により、話者数は激減しました。現在、オンゲ語の話者はごくわずかであり、消滅の危機に瀕しています。

言語学的な研究では、オンゲ語が他のアジア大陸の言語と関連があるという説も提唱されていますが、定説にはなっていません。

生活様式

オンゲ族は、伝統的な狩猟採集生活を営んでいます。小弓と矢を用いてイノシシや鳥を狩り、川や海岸で魚、カニ、エビなどを捕獲します。また、果物や木の実などの植物も食料としています。オンゲ族の社会では、男性が一人でイノシシを狩れるようになることが、一人前の証とされています。

津波の伝承

オンゲ族には、大津波に関する伝承が語り継がれています。2004年のスマトラ沖大地震の際には、この伝承に基づいて高台に避難し、部族のほぼ全員が無事だったという事例があります。これは、彼らが自然に対する深い知識と、それを伝承として受け継ぐ文化を持っていることを示しています。

人口の推移

20世紀初頭には600人以上いたオンゲ族の人口は、その後減少を続けました。外来の病気に対する抵抗力の弱さや、乳幼児の死亡率の高さなどが原因として考えられています。インド政府は、オンゲ族の保護政策を実施し、医療体制の改善や部外者との接触制限などを行ってきました。その結果、近年では人口が若干増加に転じており、2017年には117人となっています。今後の医療設備の充実により、人口の急増が期待されています。

遺伝子

オンゲ族の遺伝子を調べた研究によると、Y染色体ハプログループは、出アフリカ後に北ルートをとったモンゴロイド系のハプログループDが多く見られます。これは、約4万年前にチベット高原で分離し、中国南部を経由してアンダマン諸島に南下したと考えられています。一方、ミトコンドリアDNAハプログループは、出アフリカ後に南ルートをとったオーストラロイド系のハプログループM31,M32のみで占められています。また、東南アジアを祖先に持つ遺伝子も確認されており、オンゲ族の複雑なルーツを示唆しています。

オンゲ族は、独自の文化と伝統を守りながら、厳しい環境の中で生き抜いてきた民族です。彼らの存在は、人類の多様性と、自然との共生の重要性を教えてくれます。



参考文献

『ジャラワとオンゲ』. ZeAmi (2013年7月24日). 2014年6月6日閲覧。
Heinrich Harrer: Die letzten Fünfhundert. Expedition zu den Zwergvölkern auf den Andamanen. Ullstein, Berlin u. a. 1977, ISBN 3-550-06574-4.
* Vishvajit Pandya: Above the Forest. A Study of Andamanese Ethnoanemology, Cosmology, and the Power of Ritual. Oxford University Press, Delhi u. a. 1993, ISBN 0-19-562971-X.

もう一度検索