オンフロワ4世・ド・トロン

オンフロワ4世・ド・トロンの生涯

オンフロワ4世・ド・トロン（Onfroy IV de Toron, 1166年頃 - 1198年）は、エルサレム王国の有力貴族であり、トロン卿でした。彼はエルサレム王女イザベルの最初の夫として知られていますが、王位に就くことを拒み、後に婚姻を解消されました。彼の生涯は、エルサレム王国の複雑な政治情勢、十字軍、そしてイスラム勢力との関わりの中で展開されました。

生い立ちと家督相続

オンフロワ4世は、1165年頃にオンフロワ3世（オンフロワ2世の子）とエティエネット・デ・ミリーの間に生まれました。幼い頃に父を亡くし、母がOultrejourdan卿領を継承しました。その後、母はミレ・ド・プランシー、ルノー・ド・シャティヨンと再婚し、オンフロワ4世は複雑な家庭環境で育ちました。1179年、祖父オンフロワ2世の死により、トロン卿の地位を継承しました。

王女イザベルとの結婚

1180年、オンフロワ4世はエルサレム王ボードゥアン4世の異母妹イザベルと婚約しました。この結婚は政治的な意味合いが強く、ボードゥアン4世はハンセン病を患っており、オンフロワ4世が強大化することを警戒していました。婚約に際し、オンフロワ4世はトロン卿領をボードゥアン4世に返還し、代わりに貨幣封を与えられました。1183年、ケラク城でイザベルとの結婚式が挙げられましたが、その最中にサラーフッディーンの襲撃を受け、城が包囲されました。幸い、ボードゥアン4世とトリポリ伯レーモン3世の援軍により解放されました。

王位を拒否

1185年にボードゥアン4世が死去し、幼いボードゥアン5世が即位しますが、彼も翌年に亡くなりました。エルサレム王国の貴族たちは、ボードゥアン4世の姉シビーユとその夫ギー・ド・リュジニャンを嫌い、オンフロワ4世とイザベルを王位に就けようとしました。しかし、オンフロワ4世は王位を嫌がり、逃亡。シビーユとギーに臣従しました。

ヒッティーンの戦いと捕虜生活

1187年、ヒッティーンの戦いでエルサレム王国軍がサラーフッディーンに壊滅させられた際、オンフロワ4世は捕虜となりました。母エティエネットは、トランスヨルダンの要塞群と引き換えにオンフロワ4世の解放を交渉し、彼を解放させることに成功しました。その後、サラーフッディーンはケラク城とモンレアル城を攻略しました。

婚姻の解消とその後

1190年、女王シビーユが死去すると、イザベルはモンフェッラート侯コンラート1世と結婚させられることになりました。オンフロワ4世はこれに抗議しましたが、結局婚姻は取り消されました。その後、オンフロワ4世はイングランド王リチャード1世の軍に加わり、アラビア語の能力を生かしてサラーフッディーンの弟アル＝アーディルとの交渉に携わりました。コンラート1世の暗殺事件では黒幕として疑われましたが、歴史家たちは彼が無実であると結論付けています。オンフロワ4世は1198年に亡くなりました。

前半生と政治的背景

オンフロワ4世の幼少期は、エルサレム王国内の派閥争いと深く関わっていました。彼の継父であるルノー・ド・シャティヨンとイザベルの継父であるバリアン・ディブランは、それぞれ有力な貴族のリーダーでした。ボードゥアン4世の病弱さから、王国の実権をめぐる争いが激化する中、オンフロワ4世は翻弄されることになります。

イザベルとの結婚の背景

オンフロワ4世とイザベルの結婚は、政治的な思惑が複雑に絡み合っていました。ボードゥアン4世は、オンフロワ4世が二つの大所領を支配することを嫌い、トロン領を返上させました。この結婚は、当時の中東における複雑な権力構造を象徴する出来事でした。

サラーフッディーンとの戦い

オンフロワ4世は、サラーフッディーンの侵攻の中で何度も戦火に巻き込まれました。ケラク城包囲戦やヒッティーンの戦いでの捕虜生活は、彼の人生に大きな影響を与えました。これらの経験は、彼のその後の行動にも影響を与えたと考えられます。

王位継承問題

ボードゥアン5世の死後、オンフロワ4世はエルサレム王位の有力候補となりました。しかし彼は王位を拒否し、シビーユとその夫に臣従しました。この行動は、彼が権力よりも個人的な平穏を求めていたことを示唆しています。

婚姻の取り消しと再婚

イザベルとの婚姻が取り消された後、イザベルはモンフェッラート侯コンラート1世と再婚しました。この出来事は、エルサレム王国の政治的な混乱を象徴しており、オンフロワ4世もその渦中に巻き込まれました。彼が婚姻の取り消しに抗議したという記録は、彼の複雑な心境を示しています。

リチャード1世との関わり

イングランド王リチャード1世の十字軍に参加したオンフロワ4世は、アラビア語の通訳として重要な役割を果たしました。サラーフッディーンの弟との交渉は、当時の外交交渉における彼の存在感を示しています。

その後の評価

オンフロワ4世は、エルサレム王国の歴史において、その行動がしばしば誤解されてきました。しかし近代の歴史家たちは、彼の行動をより客観的に評価し、彼が権力争いを嫌い、平和を望んでいたことを指摘しています。彼の生涯は、複雑な政治情勢の中で翻弄された一人の貴族の物語として、今もなお語り継がれています。

オンフロワ4世の生涯は、12世紀のエルサレム王国における複雑な政治、宗教、そして文化が絡み合った状況を理解する上で、非常に重要な手がかりを提供しています。

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