オースティン・フリーマン

リチャード・オースティン・フリーマン：科学的推理の先駆者

リチャード・オースティン・フリーマン（1862年4月11日 - 1943年9月28日）は、イギリスの推理作家であり、法医学を駆使した推理小説の先駆者として知られています。彼の作品は、当時の最新科学技術を犯罪捜査に取り入れ、読者を魅了しました。

生涯

ロンドンのソーホーで仕立屋の息子として生まれたフリーマンは、家業を継がず医師を目指しました。1887年に医師免許を取得後、ミドルセックス病院に勤務。その後、経済的な理由から黄金海岸（現在のガーナ）の病院に勤務しました。この地での経験は、マラリアや黒水病といった病との闘いだけでなく、作品にも反映されています。帰国後は、ホロウェイ刑務所の医師などを経て、作家としての道を歩み始めました。

作家としてのキャリア

シャーロック・ホームズに触発されたフリーマンは、1902年にJ・J・ピトケアンとの合作で、怪盗ロムニー・プリングルを主人公とした短編を執筆。クリフォード・アッシュダウンの筆名で発表し、成功を収めました。1907年には、本名で長編『赤い拇指紋』を発表。法医学者探偵ジョン・ソーンダイク博士を初登場させ、指紋を推理小説に最初期に取り入れた作品として話題を呼びました。その後、ソーンダイクものの短編を雑誌に連載し、人気を博しました。1912年には、短編集『歌う白骨』で倒叙形式を初めて使用し、推理小説に新たな境地を開きました。

第一次世界大戦中は軍医として従軍。戦後は長編小説の執筆に力を入れ、推理文壇の重鎮として、ディテクションクラブの創立にも貢献しました。

作風と評価

フリーマンの作風は、指紋や血痕の鑑識といった最新の法医学や鑑識技術を積極的に取り入れ、不可能に見える事件を科学的に解明することにあります。ソーンダイク博士は、科学技術を駆使する探偵として、「シャーロック・ホームズ最大のライバル」とも呼ばれました。また、犯行場面から描く倒叙形式の導入や、科学的犯罪捜査の面白さによって、推理小説の興味を「犯人当て」から「犯行の手段」へと深化させました。しかし、当時の最新知識を用いたために、現代では古く感じられる部分もあります。

フリーマンは、イズレイル・ザングウィルと共に、推理小説におけるフェアプレーの原則を提唱した一人でもあります。読者に常にフェアであることを心がけ、犯罪場面を詳細に描写したり、指紋や血痕の写真を掲載したりすることで、読者に手がかりを与えました。しかし、専門的な知識がなければ解明できないトリックも多く、フェアプレーとは言い難いという指摘もあります。

一般的に、短編の方が評価が高く、長編は冗長だと評されることが多いですが、『証拠は眠る』や『ポッターマック氏の失策』は高い評価を得ています。アフリカでの経験や医師時代の苦労が、作品の随所に反映されているのも特徴です。

レイモンド・チャンドラーは、フリーマンを「すばらしい作家」と評価し、その作品のサスペンス、ヴィクトリア時代調の描写、そしてソーンダイク博士とワトスンのような相棒関係を絶賛しています。

主な作品

ソーンダイク博士シリーズ
赤い拇指紋
オシリスの眼
三十一号新館事件
歌う白骨
証拠は眠る
ポッターマック氏の失策
怪盗プリングルもの
ロムニー・プリングルの冒険
ノンフィクション
* アシャンティとジャマンの紀行と生活

リチャード・オースティン・フリーマンは、科学的推理小説の分野において、先駆的な役割を果たした作家として、その功績は今後も評価され続けるでしょう。

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