オートノミズム

オートノミズム：反体制左翼運動と自律的な社会変革

オートノミズム（Autonomism）、あるいは自治主義、自律主義は、20世紀後半以降、世界各地で展開された反権威主義的な左翼運動およびその理論体系を指します。近代国家や資本主義体制への批判を基盤とし、既存の政治・社会構造からの自立と、個人の解放、より民主的な社会の実現を目指した多様な活動が展開されました。

オペライズムからの起源と理論的発展

オートノミズムの理論的ルーツは、1960年代のイタリアにおけるオペライズム（労働者主義）に遡ります。当初はマルクス主義的な枠組みの中に位置づけられていましたが、シチュアシオニスト・インターナショナルの影響や、イタリア極左運動の経験を通して、ポストマルクス主義やアナーキズム的な要素を強く取り入れるようになりました。アントニオ・ネグリ、マリオ・トロンティ、パオロ・ヴィルノといった重要な思想家の登場が、オートノミズム理論の発展に大きく貢献しました。

彼らの主張の中核には、労働者階級や社会全体の自律的な自己組織化があります。近代国家や既存の労働組合、政党といった組織は、中央集権的で階層的な権力構造を有しており、真の民主主義や個人の解放を阻害すると見なされました。オートノミズムは、これらの組織に依存しない、草の根レベルからの社会変革を目指しました。

Georgy Katsiaficasは、オートノミズム運動を「人々が日々の生活に影響を与える決定に直接関与する自律的な社会運動」と要約しています。これは、従来の政治システムの外側で、人々が自らの力で社会を変化させていくという意思の表れです。

多様な運動形態と国際的な広がり

オートノミズムは、イタリアにおける「オペライズム」運動を起点に、ドイツのAutonomen、オランダのアナキスト運動、そして世界各地の自治社会センター運動などに影響を与えました。現在でも、イタリア、フランス、英語圏諸国など、世界中でその影響が見られます。

オートノミストたちは、自らの政治的立場をマルクス主義者、無政府主義者など、多様に規定しています。共通項としては、既存の権力構造への批判と、社会のより根本的な変革を目指すという点です。

オートノミズムとマルクス主義

オートノミスト・マルクス主義は、従来のマルクス主義とは異なるいくつかの特徴を有しています。労働者階級が、国家、労働組合、政党といった既存の組織とは独立して、資本主義体制に変化を迫ることができるという点を強調しました。

従来のマルクス主義が政党組織への関与を重視する傾向があるのに対し、オートノミスト・マルクス主義は、伝統的な組織構造の外側での自己組織化された行動、つまり「ボトムアップ」型の社会変革を重視しました。欠勤、遅延作業、労働現場での自己組織化、サボタージュといった、労働者階級による日常的な抵抗活動に注目しました。

また、「労働者階級」の定義も、従来のマルクス主義よりも広い範囲に及んでいます。ホワイトカラー、ブルーカラーの賃金労働者だけでなく、学生、非雇用者、家政婦など、従来の労働組合の枠外に置かれていた人々も含めています。

初期のオートノミズム理論家たちは、「社会的労働」という概念に着目しました。現代の富は、計測不能な集約的な労働によって生産され、そのほんの一部しか賃金として労働者に分配されていないという視点です。フェミニスト的な視点からは、家事労働など非賃金労働の重要性も強調されています。

イタリアのアウトノミア運動：オペライズムと直接行動

イタリアのオートノミズム運動は「オペライズム」として知られており、1960年代初頭、トリノの自動車産業労働者の組合における不満から始まりました。労働組合への幻滅と、それに続く労働者による暴動が、自律的な労働者代表理論の発展を促しました。

1960年代後半から1970年代にかけては、「ロッタ・コンティヌア（継続闘争）」や「労働者の力（ポテレ・オペライオ）」といったグループが活躍しました。大学占拠、工場占拠、警察との衝突など、様々な直接行動が展開されました。「インディアニ・メトロポリタニ（大都市のインディアンたち）」と呼ばれる学生グループは、芸術や自発性を重視した独自の活動を行いました。

1970年代後半には、イタリア政府による弾圧を受け、多くの活動家が逮捕・国外逃亡を余儀なくされました。

トゥーテ・ビアンケ運動：グローバル化への抵抗

1990年代には「トゥーテ・ビアンケ（白いつなぎ）」と呼ばれる過激派社会主義運動が展開されました。デモにおける警察との衝突を回避するために、参加者たちは白いつなぎを着て一体となって行動しました。ジェノヴァ・サミット反対闘争などはその象徴的な出来事です。

フランスとドイツにおけるオートノーム運動

フランスでは、「社会主義か野蛮か」派が初期のオートノミズム集団として知られています。アメリカの自動車産業における労働者階級の闘争研究を取り入れ、組合や政党とは独立した労働者の闘争を展開しました。「直接行動」派といった過激派グループも出現しましたが、後に解散しています。フランスのオートノミズム運動は、反グローバリゼーション運動や反移民政策への抗議活動などにも関与しています。

ドイツでは、1970年代後半から「アウトノーメ（Autonome）」と呼ばれる過激派左翼運動が展開されました。反原発運動、空港滑走路建設反対運動など、様々な社会運動に参加し、直接行動も積極的に行いました。特徴的な服装から「シュワルツブロック」と呼ばれ、後のブラック・ブロック運動の先駆けとなりました。

結び

オートノミズム運動は、近代国家や資本主義体制への批判、民主主義拡大、個人の解放という共通の目標を持ちながら、多様な形態で世界各地に展開されました。その影響は、現代社会の様々な運動や思想に受け継がれています。直接行動、自己組織化、社会センターといった、彼らの実践や戦略は、既存の枠組みにとらわれない社会変革を目指す人々にとって、今も重要な示唆を与え続けています。

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