オートマチック限定免許

オートマチック限定免許（AT限定免許）

オートマチック限定免許、略称「AT限定免許」は、日本の自動車運転免許及び自動二輪車運転免許に設けられた限定条件の一つです。この限定が付された免許では、オートマチックトランスミッション（AT）を搭載した車両のみを運転することができます。一般的には「オートマ限定」「AT限定」「オートマ免許」「AT免許」などと呼ばれています。

制度導入の背景

かつて日本の自動車教習所では、マニュアルトランスミッション（MT）車による教習が中心でしたが、AT車の普及が進むにつれて、ブレーキとアクセルの踏み間違いといったAT車特有の操作ミスによる事故が増加したことも、制度導入の背景にあるとされます。また、AT車が広く普及し、MT車を運転する機会が減少した現状を踏まえ、AT車の運転特性に特化したカリキュラムで運転免許を取得できるよう、AT限定免許の導入が図られました。

普通自動車免許については、1991年11月1日にAT限定が創設されました。これにより、免許取得において手動での変速操作を学ぶ必要がなくなりました。ただし、運転免許試験場で行われる学科試験は、MT車で免許を取得する人と同じ内容が出題されます。

自動二輪車（普通・大型）免許にも、2005年6月1日からAT限定が設けられました。これにより、ビッグスクーターなどのAT二輪車に乗るための免許取得が比較的容易になった面がありますが、AT二輪車（主にビッグスクーターが教習に使われる）で特定の課題走行を行う場合、MT車よりも操作が難しいとされるものもあります。

大型自動二輪免許のAT限定に関しては、創設当初は運転できる車両の排気量に上限（650cc以下）がありましたが、2019年12月1日よりこの上限が撤廃され、排気量無制限の大型AT二輪車が運転可能となりました。この変更は、同日以降に新規で免許を取得した人に加え、すでに大型二輪AT限定免許を保有している人にも適用されています。

対象となる免許と車両

現在、AT限定が設定されているのは、普通自動車免許、中型自動車免許の8t限定（2007年改正前普通免許）、準中型自動車免許の5t限定（2017年改正前普通免許）、そして自動二輪車免許（普通・大型）です。一方で、限定のない中型・大型自動車免許や準中型自動車免許、特殊自動車免許にはAT限定はありません。ただし、普通自動車第二種免許にはAT限定が存在するため、タクシーや運転代行のドライバーでもAT車しか運転できない場合があります。

運転できる「AT車」とは、道路交通法上、二輪を除く自動車ではクラッチペダル、自動二輪車ではクラッチレバーを持たない車両を指します。そのため、セミATや遠心クラッチ、近年普及しているデュアルクラッチトランスミッション（DCT）を搭載した車両も、AT限定免許で運転することができます。

AT限定免許の特徴と現状

AT限定免許は、限定なしの免許に比べて教習時間が短く（通常3レッスン分程度）、取得にかかる費用もやや安価であるという特徴があります。そのため、仕事や日常生活でMT車を運転する機会がほとんどない、あるいは全くないという人にとっては、合理的な選択肢となります。

一方で、MT車での教習を受けないため、将来的に限定のない準中型・中型・大型免許（これらは通常MT車で教習・試験が行われる）の取得を目指す場合、改めてMT車の操作を習得する必要があり、限定なしで最初から取得する場合と比べて習得に時間がかかる可能性があります。

日本国内では、乗用車販売台数に占めるAT車の割合が極めて高く、2011年の時点で98.5%に達するなど、AT車が圧倒的に普及しています。AT機構の性能向上や運転のしやすさが、この傾向を後押ししています。

このような背景から、普通自動車免許を取得する人のうちAT限定を選択する人の割合は年々増加しています。2001年には3割を下回っていましたが、2010年には過半数を超え、2020年には約69%に達しています。普通自動車免許の保有者全体でも、2015年にはAT限定が過半数となりました。

トラックやバスは長らくMT車が主流でしたが、近年はAT車も増加傾向にあります。業務用車両全般でもAT車の導入が進んでおり、タクシーや営業車、レンタカーなど、AT車が標準的になっています。ただし、運送業や建設業など、職種によっては限定なしの免許が依然として必要とされるケースもありますが、準中型免許の登場によりその傾向も変化しつつあります。

自動二輪免許では、小型限定においてはAT限定の取得者が約6割と高い割合を占めています。これは、125cc以下の市販車にAT車やクラッチ操作不要な車両が多いことや、教習課題にMT車ほど複雑な操作を要するものが少ないためです。しかし、普通二輪や大型二輪では依然としてMT免許の取得者が大多数です。これは、教習課題の一部でAT車（ビッグスクーター）の方が難しいとされる点や、普通・大型バイクの市販車のほとんどがMTであること、そして「どうせ取るなら制限のない免許を」という意識などが影響していると考えられます。

限定の解除

AT限定免許を取得した後に限定を解除したい場合は、改めて審査科教習を受け、技能審査に合格する必要があります。最短で4時限の教習を受け、教習期限（通常3ヶ月）内に審査に合格すれば限定が解除されます。また、特定のAT限定免許は、より上位の限定なし免許を取得することによって下位の免許のAT限定が解除される場合があります（例：普通自動車AT限定免許を所持している人が、限定なしの大型自動車免許などを取得する場合）。

ただし、原動機付自転車や小型特殊自動車については、「AT車に限る」という限定条件の対象外であるため、AT限定免許の所持者でもMT車を運転することができます。ただし、下肢に障害がある場合などに付与される「ATに限る」という条件は、これらの車両にも適用されます。

日本国外の状況

AT限定免許と同様の制度は、EU諸国、イギリス、韓国、中国、オーストラリア、カナダなど、多くの国で導入されています。これらの国々でもAT車の普及が進んでおり、AT限定で免許を取得する人が増加傾向にあります。特にカナダでは、AT限定での取得が一般的となっているようです。欧州ではまだMT車が主流であるため、AT限定の割合は日本や北米ほど高くありませんが、徐々に増加しています。

なお、国際運転免許証にはAT限定に関する特別な記載はなく、制度自体が存在しない国もあります。

関連項目

オートマチックトランスミッション
マニュアルトランスミッション
限定免許 (運転免許)
限定解除審査

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