オーボエソナタ (プーランク)

オーボエとピアノのためのソナタ FP185

フランシス・プーランク（Francis Poulenc, 1899-1963）が1962年に完成させた室内楽曲、「オーボエとピアノのためのソナタ」（フランス語: Sonate pour hautbois et piano）FP185は、作曲家の円熟期、そして最後の創作活動を締めくくる作品の一つです。

概要

このソナタは、プーランクが生涯で手掛けた3つの木管楽器のためのソナタ（1956年のフルート・ソナタ、本作と同年のクラリネット・ソナタ）を締めくくる存在として位置づけられます。サーンス＝サーンスのオーボエ・ソナタ op.166やシューマンの3つのロマンス op.94と並び、オーボエ奏者が主要なレパートリーとして取り組む作品の一つに数えられています。

特にこの作品には、プーランクが敬愛し、先に世を去った友人セルゲイ・プロコフィエフへの追悼の念が込められています。しかし、皮肉にもプーランク自身もこのソナタを完成させた直後に逝去したため、結果として彼の音楽的な遺書、または遺作と見なされることになりました。

プーランクの多くの作品と同様、このソナタも楽器の特性を最大限に引き出すよう書かれています。オーボエには極めて広い音域の使用や高度な技巧が要求され、ピアノも単なる伴奏にとどまらず、同等の技術と表現力を必要とされます。楽器それぞれの可能性を深く追求した楽曲と言えるでしょう。

その音楽は、伝統的なソナタ形式とは異なる自由な構成、流麗でありながら印象深い旋律線、そして豊かな和声感が特徴的で、プーランク固有の個性が強く表れています。一方で、楽曲全体を通して感じられるのは、死の影や深い悲しみです。特に最終楽章ではその傾向が顕著であり、多くのオーボエ奏者にとって、この楽章は亡き人々への鎮魂歌のように響くと言われます。プーランク自身も、終楽章について「典礼歌のような趣がある」と述べています。

作品の初演は、プーランク没後の1963年6月8日、ストラスブールにて行われました。オーボエをピエール・ピエルロが、ピアノをジャック・フェヴリエが担当しています。なお、2004年にはチェスター社から改訂版が出版され、第2楽章におけるピアノパートの和声に一部変更が加えられています。

構成

全3楽章から構成されていますが、一般的なソナタに見られる「速い―遅い―速い」という配置ではなく、「遅い―速い―遅い」という対照的な順序が採用されています。

1. 第1楽章「悲歌」（Elégie） 速度指示：Paisiblement, sans presser (静かに、急がずに)
自由な形式による楽章です。オーボエの短いソロによる序奏の後、穏やかなト長調の第1主題と、付点音符が特徴的なニ短調の第2主題が現れます。この第2主題は、苦悩や憧れ、追憶といった情感を象徴的に表していると解釈されることが多いです。中間部では激しい展開が繰り広げられ、主に第2主題が扱われます。音楽は「速い―遅い―速い―遅い」と目まぐるしく表情を変えます。再現部では主題が形を変えて再び登場し、展開部の回想を経て、短く静かに閉じられます。この第2主題は、最終楽章にも異なる調性で再登場し、作品全体の統一感を高めています。

2. 第2楽章「スケルツォ」（Scherzo） 速度指示：Très animé (非常に活気よく)
3部形式による、非常に速いテンポのスケルツォ楽章です。オーボエの超高音域でのトリルや、歯切れの良い急速なパッセージが特徴で、オーボエ奏者にもピアニストにも高度な技術が求められ、演奏上の大きな難所となります。中間には緩やかな部分が挿入されており、ここにはプロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」へのオマージュが込められていると言われています。特にルンバ風のリズムは演奏が困難とされる箇所です。

3. 第3楽章「嘆き」（Déploration） 速度指示：Très calme (きわめて穏やかに)
変奏曲形式と3部形式が融合した構造を持つ楽章です。冒頭に提示される、上行する3つの音（変イ長調のA♭からB♭、そしてB♮）が主要な動機として楽曲全体を支配します。文字通り「嘆き」を表すかのようなこの楽章は、プーランクが最晩年に到達した境地を伝える深い音楽となっています。
変奏は主題の旋律そのものよりも、調性（嬰ト短調、ハ短調、ホ短調など）や強弱に変化が与えられる形をとります。ここでは、ピアノの重厚で持続的な和音の上で、オーボエが嘆きの動機を奏でる場面が多く見られます。中間部分では、ピアノの弱々しい一定のリズムに乗って新しい旋律が現れ、次第にクレッシェンドしてゆきます。そしてイ短調での力強い頂点で、冒頭の上昇動機が再び現れます。楽章の終盤では、第1楽章の第2主題が調性を変えて回帰し、ヘ短調の和音の上で上昇動機が繰り返されます。最後は、ピアノが奏でるリズムの上で動機が下降形となり、次第に力を失って弱々しく静かに消え入るように終わります。

全曲を通しての演奏時間は、およそ14分程度です。

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