オールディーズ (アルバム)

ビートルズ唯一の公式コンピレーションアルバム『オールディーズ』：知られざる制作秘話と魅力

1966年12月10日、イギリスでリリースされたビートルズの公式コンピレーションアルバム『オールディーズ(A Collection Of Beatles Oldies)』。このアルバムは、ビートルズの歴史において特異な位置を占める作品であり、その制作背景には様々な興味深いエピソードが隠されています。

まず、このアルバムがビートルズ活動期唯一の公式コンピレーションアルバムであるという点が注目に値します。ベストアルバムと言える本作は、画家デヴィッド・クリスチャンによるアートワークをまとって、モノラル盤とステレオ盤の2種類でリリースされました。しかし、その販売地域はイギリスとイギリス編集盤の国々に限定されており、アメリカ合衆国やそれに準ずる国々では発売されませんでした。

『オールディーズ』が制作された背景には、ビートルズの契約上の事情があります。当時、彼らは年間2枚のアルバム制作という契約義務を負っていましたが、1966年4月に『リボルバー』を完成させた後、メンバーは長期休暇に入っていました。ジョン・レノンは映画撮影のため西ドイツに、ポール・マッカートニーは映画音楽制作や関連イベントに、ジョージ・ハリスンはシタールの練習に、そしてリンゴ・スターは家族との時間へと、それぞれが別々の活動に没頭していたため、新作アルバムの制作は不可能でした。

この状況を受け、EMIは代替案として『オールディーズ』の企画を進めました。しかし、ビートルズの広報担当者トニー・バーロウによると、メンバー自身はこのアルバムの発売に反対していたとのことです。メンバーの意向とは裏腹にリリースされた本作には、1963年から1966年までの主要なシングル曲と、アルバム収録曲の一部が選曲されています。さらに、当時イギリスでは未発表だった「バッド・ボーイ」も収録されている点が特徴です。

特に興味深いのは、ステレオミックスに関するエピソードです。「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」「フロム・ミー・トゥ・ユー」「アイ・フィール・ファイン」「バッド・ボーイ」「デイ・トリッパー」「ペイパーバック・ライター」など、いくつかの楽曲はイギリスではステレオミックスが発売されておらず、『オールディーズ』で初めてステレオ版がリリースされました。しかし、「シー・ラヴズ・ユー」に関しては、2チャンネルのステレオマスターテープが既に破棄されていたため、モノラルマスターテープから疑似ステレオが作成されるという異例の事態となりました。この作業は、ジョージ・マーティンの立ち会いのもと、エンジニアのジェフ・エメリックによって行われました。ビートルズメンバーは、この作業には立ち会っていません。

さらに、「デイ・トリッパー」と「恋を抱きしめよう」に関しては、EMIが急遽ステレオ・リミックスを要請したため、マーティンとエメリック不在の下、EMIのエンジニア2人が作業を行いました。この際、「バッド・ボーイ」の新ステレオミックスも要請されていましたが、EMIの連絡ミスにより「ジス・ボーイ」のステレオミックスを優先してしまい、「バッド・ボーイ」はアメリカ盤『ビートルズVI』と同じステレオバージョンが使用されることになりました。

また、特筆すべき点として、ジョージ・ハリスンが作詞作曲しリードボーカルを務めた楽曲が一枚も収録されていないことが挙げられます。これは、彼自身の意向を反映しているのか、それとも制作側の判断によるものなのか、詳細は不明です。

アルバムの裏ジャケットには、写真家ロバート・ウィテカーが撮影した写真が使用されています。これは、1966年6月～7月の来日公演時の東京ヒルトンホテル（現・キャピトル東急ホテル）で撮影されたものですが、日本以外の多くの国で発売されたアルバムでは、この写真が反転して印刷されているというミスがありました。マッカートニーが着ていた半被の「寿」の文字が逆さになっていることから、容易にそのミスを確認できます。

『オールディーズ』は、その制作経緯や楽曲選定、そしてステレオミックスに関するエピソードなど、様々な点で興味深い作品です。ビートルズの音楽史における一側面を垣間見ることができる、貴重なアルバムと言えるでしょう。

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