ジス・ボーイ

ジス・ボーイ：ビートルズの隠れた名曲とその魅力

ビートルズの楽曲「ジス・ボーイ (This Boy)」は、ジョン・レノンが作詞作曲した、レノン＝マッカートニー名義の楽曲です。1963年11月、イギリスではシングル『抱きしめたい』のB面として発売され、その後アメリカやカナダでもシングルやアルバムに収録され、世界的に知られるようになりました。日本での初期の邦題は「こいつ」でした。

この曲は、1964年2月16日放送の『エド・サリヴァン・ショー』でも演奏され、大きな話題を呼びました。さらに、1964年公開の映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』では、ジョージ・マーティンによるオーケストラアレンジ版が「リンゴのテーマ (Ringo's Theme (This Boy))」として使用され、サウンドトラックアルバムにも収録。シングルカットもされ、アメリカではBillboard Hot 100で53位を記録するなど、幅広く親しまれました。

スモーキー・ロビンソンとドゥーワップの影響

「ジス・ボーイ」は、レノンがスモーキー・ロビンソンの音楽スタイルに影響を受けて制作されたと言われています。ドゥーワップ特有のコード進行、メロディーライン、そしてアレンジは、楽曲全体に独特の雰囲気を与えています。さらに、ボビー・フリーマンの「You Don't Understand Me」やテディ・ベアーズの「逢った途端にひとめぼれ」といった楽曲からも影響を受けているとされ、レノン独特の音楽センスが光る作品です。

特徴的な3声コーラスとレコーディング

この楽曲の特徴として、レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンの3声コーラスが挙げられます。このコーラスアレンジは、後の「イエス・イット・イズ」や「ビコーズ」にも受け継がれ、ビートルズサウンドの重要な要素となりました。当初ミドルエイトにはギターソロが予定されていましたが、レコーディング中に変更されています。

1963年10月17日、EMIレコーディング・スタジオにて、ジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えレコーディングが行われました。計15テイクが録音され、オーバーダビングを2回施した後、2つのテイクを組み合わせ、ミドルエイトの最後のヴァースを編集してフェードアウトする形で最終マスターが完成しました。1996年にはシングル『フリー・アズ・ア・バード』のカップリングとして、テイク12と13が収録されましたが、これらのテイクではレノンが歌詞を「Thas Boy」と間違って歌っている部分があります。

ステレオミックスとモノラルミックスは1963年10月21日に作成されましたが、ビートルズ活動中には新たなステレオミックスが作成されましたが、発売されることはありませんでした。これは、1966年のコンピレーション・アルバム『オールディーズ』のミキシングセッションで、EMIスタッフのミスにより「バッド・ボーイ」と「ジス・ボーイ」を取り違えてしまったことによるものです。最終的に「ジス・ボーイ」のステレオミックスは、解散後の1981年12月に発売された『ザ・ビートルズ EPコレクション』に収録されました。CD作品としては、1988年3月発売の『パスト・マスターズ Vol.1』に初収録されています。

映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』と「リンゴのテーマ」

映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』では、ジョージ・マーティンによるオーケストラアレンジ版が、リンゴ・スターが川辺を歩くシーンで使用されました。このインストゥルメンタルバージョンは「リンゴのテーマ」として、シングル『アンド・アイ・ラヴ・ハー (オーケストラ・アレンジ版)』のB面やサウンドトラックアルバム『A Hard Day's Night (United Artists)』、マーティンのソロアルバム『ビートルズ・ヒット・ソング集』にも収録されています。

参加メンバーと使用楽器

ジョン・レノン：ダブルトラックボーカル、アコースティックギター（ギブソン・J-160E）
ポール・マッカートニー：ベース（ヘフナー・500-1）、ハーモニーボーカル
ジョージ・ハリスン：エレクトリックギター（グレッチ・デュオ・ジェット）、ハーモニーボーカル
リンゴ・スター：ドラム（ラディック・オイスター・ブラック・パール）

カバーバージョン

「ジス・ボーイ」は、多くのアーティストによってカバーされています。その中には、ジョー・バターン、ザ・ナイロンズ、佐藤博、竹内まりや、モナリザ・ツインズといった著名なミュージシャンも含まれています。これらのカバーバージョンは、それぞれのアーティストの個性を反映し、楽曲の新たな魅力を引き出しています。

「ジス・ボーイ」は、ビートルズの初期作品でありながらも、その音楽性、レコーディングにおけるエピソード、映画との関わりなど、多様な側面を持つ、非常に興味深い楽曲です。その魅力は、時代を超えて多くのリスナーを魅了し続けています。

もう一度検索