カスリーン台風

カスリーン台風：戦後日本を襲った未曾有の大災害

1947年9月、カスリーン台風（昭和22年台風第9号、国際名：カスリーン）は日本列島に接近し、東海地方以北、特に関東地方と東北地方に壊滅的な被害をもたらしました。この台風は、勢力そのものよりも、異常なほどの降水量によって甚大な被害をもたらした「雨台風」の典型例として知られています。当時、日本ではアメリカ軍による占領下にあったため、台風の命名はアメリカ合衆国と同様に女性の名前を用いるシステムが用いられていました。カスリーン台風はその中で11番目に命名された台風であり、日本の台風番号では9号に相当します。

台風の発生と進路

カスリーン台風は9月8日、マリアナ諸島東方沖で発生し、西進、その後北へと進路を変えました。9月11日には台風と認定され、14日には中心気圧960hPaに達する勢力にまで発達しました。関東地方に停滞していた前線と相まって、関東地方を中心に記録的な豪雨をもたらしました。15日には房総半島に上陸し、16日には太平洋上に抜けていきました。

未曾有の被害

カスリーン台風は、戦後復興途上にある日本に壊滅的な被害をもたらしました。死者1,077名、行方不明者853名、負傷者1,547名という人的被害に加え、住宅の損壊浸水は数万棟にのぼり、広大な農地が流失しました。特に群馬県、栃木県、埼玉県、東京都では、大規模な洪水が発生し、多くの犠牲者を出しました。

特に甚大な被害をもたらした地域としては、群馬県では赤城山麓で発生した土石流や、利根川、広瀬川、粕川の堤防決壊による被害、栃木県では渡良瀬川の堤防決壊による足利市の浸水、埼玉県と東京都では利根川、荒川の堤防決壊と、その氾濫が合流して東京都下まで及んだ大洪水が挙げられます。これらの地域では、河川堤防の決壊により、濁流が市街地を襲い、多くの住宅や公共施設が水没、多数の死者行方不明者が出ました。また、福島県や岩手県でも阿武隈川、北上川流域で洪水が発生し、大きな被害が発生しました。

首都圏における大洪水

カスリーン台風による首都圏の大洪水は、埼玉県加須市（当時東村）における利根川堤防の決壊が引き金となりました。この場所は江戸時代に開削された新川通と呼ばれる水路であり、過去の洪水では破堤を免れていましたが、上流域の開発などにより、増水時に大量の水が集中しやすい状況になっていました。堤防決壊により発生した洪水は、下流域へと広がり、埼玉県、東京都の広範囲に浸水被害をもたらし、多くの死者行方不明者を出しました。荒川でも堤防決壊が発生し、利根川からの氾濫と合流したことで被害はさらに拡大しました。東京都では、葛飾区、江戸川区、足立区などで大規模な浸水が発生し、水防活動も難航しました。東京都は、氾濫流を江戸川に流すため、米軍工兵隊に堤防の爆破を依頼する事態にまで発展しました。

被災地と復興

カスリーン台風の被害を受けた地域では、住民による懸命な復旧活動が行われました。また、昭和天皇は被災地を視察し、被災者の方々を激励されました。この出来事は、天皇が被災地を直接訪問し、住民を励ますという重要な契機となりました。

カスリーン台風は、人々に大きな教訓を残しました。その後の治水対策は、利根川改訂改修計画として大規模な河川改修やダム建設などが進められ、その後の台風被害軽減に大きく貢献しました。災害の記憶を風化させず、防災意識を高めていくために、カスリーン公園など、各地でその記憶を伝える取り組みが現在も続けられています。

参考文献

気象庁：災害をもたらした気象事例・カスリーン台風
国土交通省 関東地方整備局：カスリーン台風の被害
内閣府防災情報：災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1947 カスリーン台風
NHK放送史：特報　キャスリン台風被害甚大　大利根の濁水東京に達す
* NHK災害アーカイブス：1947年　カスリーン台風

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