阿武隈川

阿武隈川は、福島県と宮城県をまたがり太平洋に注ぐ、全長239kmの一級河川です。東北地方では北上川に次ぐ長さを誇り、流域には多様な自然と歴史が息づいています。その名称は古く、『延喜式』や『吾妻鏡』には「安福麻」「遇隅」と記されており、かつては「あふくま」と呼ばれていました。中世以降、逢隈川、青熊川、大熊川などの表記が見られるようになり、「おおくま」とも呼ばれるようになります。「阿武隈」の語源には、西白河郡の西甲子岳に住んでいた大熊（青熊）に由来するという説や、阿武隈川下流部の地形によるという説がありますが、いずれも定かではありません。

地理

阿武隈川は、那須岳の三本槍岳の北に位置する旭岳（甲子旭岳）に源を発します。そこから東へと流れ、白河市付近で北に転じ、福島県の中通りを縦断します。福島県と宮城県の境界付近では、阿武隈高地の渓谷を抜け、宮城県に入ると角田盆地、仙台平野を流れ、岩沼市と亘理町の境で太平洋に注ぎます。古代には、現在の鳥の海が河口だったとされています。

阿武隈川は勾配が緩やかな川ですが、その一方で、大雨時には氾濫を起こしやすい「暴れ川」としての側面も持っています。過去には、1986年の台風による大規模な洪水、2011年の東日本大震災による津波の遡上、2019年の令和元年東日本台風による支流の氾濫など、度重なる水害に見舞われてきました。これを受け、国土交通省は「緊急治水対策プロジェクト」を立ち上げ、堤防の強化などの対策を進めています。

流域の市町村

福島県: 西郷村、白河市、泉崎村、中島村、石川町、矢吹町、玉川村、鏡石町、須賀川市、郡山市、本宮市、大玉村、二本松市、福島市、伊達市、桑折町、国見町
宮城県: 丸森町、角田市、柴田町、亘理町、岩沼市

アミメカゲロウの大発生

阿武隈川の中流域、福島盆地内では、1980年代から毎年9月頃になると、アミメカゲロウが大量発生する現象が起きています。これらのカゲロウが橋上に落下し、車のスリップ事故を引き起こす危険性があるため、国土交通省は集虫灯の設置や、橋の夜間照明の消灯などの対策を講じています。

歴史

上・中流部の地形史

数十万年前、現在の郡山盆地には、南北約40kmにも及ぶ巨大な古郡山湖が存在していました。その後、湖は堆積物で埋まり消滅。阿武隈川は、約7万年前までは、現在の社川の流路に入り、大きく迂回して北へ流れていました。その後、6万年前から5万年前頃に現在の流路に近い形となり、さらにその後、何度か流路を変え、現在の形に至っています。

江戸時代以降

江戸時代には、年貢米の輸送のため、阿武隈川を利用した舟運が盛んに行われました。1664年には、江戸商人の渡辺友以が難所を拡幅し、小舟を導入したことで舟運が可能になり、1671年には、河村瑞賢によって河川改修が行われました。明治時代には蒸気船が導入され、福島から仙台まで、陸路の馬車と並行して運行されていましたが、鉄道の開通により、その役割を終えました。

また、江戸時代には、阿武隈川河口から名取川河口にかけて「木曳堀」と呼ばれる水路が建設され、木材の運搬に利用されました。明治時代には、これらの水路が整備され、貞山運河、東名運河、北上運河と繋がりました。これにより、阿武隈川は松島湾や北上川と結ばれることになりましたが、1960年代後半には、仙台港の建設のために貞山運河の一部が埋め立てられ、現在では七北田川河口部までしか通じていません。

阿武隈川を横断する渡船は、第二次世界大戦後も残っていましたが、1954年には、強風による転覆事故で多数の死傷者を出す事故も発生しています。

阿武隈川水系の主要河川

阿武隈川には、多くの支流が流れ込んでいます。主な支流は以下の通りです。

宮城県: 白石川、大深沢川、河原子沢川、松川、濁川、三途川、荒川、高倉川、半田川、小田川、雉子尾川、内川
福島県: 山舟生川、広瀬川、滝川、佐久間川、東根川、産ヶ沢川、胡桃川、摺上川、蛭川、八反田川、松川、くるみ川、荒川、新川、濁川、入川、田沢川、下浅川、立田川、水原川、女神川、木幡川、若宮川、移川、口太川、浅川、油井川、鯉川、六角川、羽石川、杉田川、百日川、安達太良川、瀬戸川、五百川、仲川、白岩川、天神川、桜川、大滝根川、藤田川、逢瀬川、南川、笹原川、滑川、釈迦堂川、取上川、初瀬川、社川、今出川、谷津田川、真名子川、堀川

阿武隈川水系の河川施設

阿武隈川水系には、多くの河川施設が存在します。特に支流には、灌漑や上水道用のダムが多く建設されています。これは、阿武隈川流域の降水量が少ないため、水を確保する必要があるためです。

阿武隈川の主なダム

（ダムの名称は割愛）

阿武隈川の水力発電所

（発電所の名称は割愛）

橋梁

（橋梁の名称は割愛）

流域の観光地

阿武隈川流域には、豊かな自然や歴史的な観光スポットが点在しています。

甲子高原
乙字ケ滝
安達太良山
阿武隈峡
飯坂温泉
稚児舞台
阿武隈川ライン下り（丸森町）
鳥の海

並行する交通

阿武隈川沿いには、鉄道や道路が並行して走っています。

鉄道

JR東日本：東北新幹線、東北本線、水郡線
阿武隈急行

道路

国道4号、118号、289号、349号
東北自動車道

参考文献

岩沼市史編纂委員会編『岩沼市史』岩沼市、1984年
小池一之、田村俊和、鎮西清高、宮城豊彦編『日本の地形』 3（東北）、東京大学出版会、2005年
仙台市史編さん委員会編『仙台市史』通史編3（近世1）、仙台市、2001年
仙台市史編さん委員会編『仙台市史』通史編6（近代1）、仙台市、2008年
仙台市史編さん委員会編『仙台市史』特別編9（地域史）、仙台市、2014年

関連項目

阿武隈 (軽巡洋艦)
あぶくま (護衛艦)
日本の川一覧

外部リンク

国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所
あぶくま川の学校
阿武隈川のすべて
阿武隈川流域
* 東北農政局/阿武隈管内国営事業（かんがい排水、農地開発等）完了地区位置図

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