カタオカザクラ

カタオカザクラ (片丘桜)

カタオカザクラ（学名: Cerasus leveilleana (Koehne) H.Ohba f. norioi (Ohwi) H.Ohba, 2007）は、バラ科サクラ属のサクラで、日本の固有種であるカスミザクラの変種です。特徴的なのは、その生育形態です。一般的なカスミザクラが20mを超える高木になるのに対し、カタオカザクラは最大でも5m程度にしかなりません。さらに、樹高50cm程度の幼木であっても花を咲かせるという、非常に珍しい性質を持っています。これは、新しい枝の先端にも花をつけることができるためです。

発見と歴史

カタオカザクラは、1945年5月13日、長野県東筑摩郡片丘村（現在の塩尻市）で、当時片丘国民学校（現在の塩尻市立片丘小学校）に勤務していた久保田秀夫氏が生徒と共に学校林で草刈り作業中に発見されました。その際、40～50cmの小さな桜が花を咲かせているのを見つけ、1952年に新品種として登録されました。

発見された場所は、その後山林火災で焼失し、野生状態では絶滅したと考えられています。しかし、幸いにも久保田氏が接ぎ木で育てていた個体が、東京大学付属日光植物園に移植され、原木として生き残りました。この原木を元に接ぎ木苗が作られ、1984年に塩尻市に里帰りしました。その後、カタオカザクラ保存会などの尽力により、挿し木や接ぎ木による増殖が進められ、現在では塩尻市内の各所で見ることができます。

名前の由来

和名の「カタオカ」は、発見地の片丘村に由来します。一方、学名の「norioi」は、発見者である久保田秀夫氏の長男「詔夫（のりお）」氏にちなんでつけられました。久保田詔夫氏は、父がカタオカザクラを発見した年に生まれ、幼い頃からこの桜を愛し、「ぼくのサクラ」と呼んでいました。3歳で日光に引っ越す際も、鉢植えのカタオカザクラを抱えて離さなかったと言います。その後、5歳8ヶ月という若さで急逝されました。この悲しい出来事の後、国立科学博物館の大井次三郎氏によって新品種であることが確定し、学名が与えられる際、詔夫氏への想いが込められたのです。

増殖の歴史

カタオカザクラの里帰りは、塩尻市の教育委員長であった古沢源七氏が、久保田秀夫氏に連絡を取ったことから始まりました。その際、日光植物園に原木が1本残されていることを知ったものの、結実が少なく、実生からは花をつけない個体が多かったため、増殖は困難とされていました。しかし、両者の強い想いを受け、日本花の会結城農場において5年がかりで接ぎ木が行われ、3本の苗木が里帰りし、塩尻市役所や長野県林業指導所、古沢氏の自宅に移植されました。その後、これらの木を母樹として増殖が進められました。1991年には、元の自生地である片丘地区に、記念碑と共に最初の1本が植栽されました。翌年には、「カタオカザクラ保存会」が結成され、挿し木による増殖と地域への植栽が積極的に進められました。現在では、保存会の指導のもと、地元の片丘小学校でも苗木作りや植樹活動が行われ、カタオカザクラは広く親しまれています。

論文

カタオカザクラ　植物研究雑誌27巻5号P148

出典

塩尻市公式サイト

カタオカザクラは、その小さく可憐な姿と、発見にまつわる心温まる物語を通じて、多くの人々に愛され続けています。

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