カタリナ・ルター

カタリナ・ルター：宗教改革者の妻として生きた女性

カタリナ・ルター（旧姓：カタリナ・フォン・ボラ）は、1499年1月29日に生まれ、1552年12月20日に亡くなった、マルティン・ルターの妻として知られる女性です。修道女から一転、宗教改革者の妻となり、激動の時代を生き抜きました。

生涯

カタリナは、小さな貴族の家に生まれましたが、幼い頃に両親を亡くし、女子修道院に預けられました。そこでシトー会の修道女として生活を送る中、マルティン・ルターの著作に触れ、彼の唱える信仰に感銘を受けます。当時、修道院ではカトリックの修道制度を批判するルターの思想が密かに広まっていました。

1523年、カタリナを含む9人の修道女たちは、ルターと交流のあった商人を利用し、ニシンの塩漬けの空樽に隠れて修道院を脱出します。当時26歳だった彼女たちは、ヴィッテンベルクのルターのもとへ身を寄せました。ルターの支援のもと、他の修道女たちは結婚し家庭を築いていきましたが、カタリナは独身のままでした。

1525年6月、カタリナは当時41歳だったマルティン・ルターと結婚します。修道士や修道女が結婚することは、カトリック教会においては重大な罪とされていました。しかし、ルターは聖職者の独身制を否定し、カタリナとの結婚を通して、新たな家庭のあり方を示しました。

ルターとの間には、三男三女（ヨハネス、エリーザベト、マグダレーナ、マルティン、パウル、マルガレーテ）が生まれました。一家は、ルターが以前暮らしていたアウグスティノ修道院の建物で生活し、学生や客に空き部屋を貸したり、ビールを醸造したりして家計を支えました。カタリナは、献身的に家庭を支え、ルターの研究活動を支える良きパートナーでした。

1546年にルターが亡くなった後、カタリナはペストの流行から逃れるため、トルガウへ向かう途中に事故に遭い、骨盤を骨折しました。この怪我が原因で、1552年12月20日にトルガウで生涯を閉じました。

宗教改革におけるカタリナの役割

カタリナ・ルターは、単にマルティン・ルターの妻というだけでなく、宗教改革における家庭観の形成に重要な役割を果たしました。プロテスタントは、聖書に根拠がないとして聖職者の独身制を否定し、教役者の結婚を認めました。ルター自身も、カタリナとの結婚を通して、その正当性を示しました。カタリナは、夫を支え、子供たちを育てる中で、新しい時代の家庭のあり方を体現したのです。カトリック教会側は、ルターの結婚を非難しましたが、ルターは「結婚して満ち足り、子供が与えられて幸せだ」と反論しました。

カタリナ・ルターの生涯は、修道女から宗教改革者の妻へという劇的な変化に満ちています。彼女は、激動の時代の中で、夫を支え、家庭を築き、新しい信仰のあり方を実践しました。彼女の存在は、宗教改革における女性の役割を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。

カタリナは、ルターの同志であり、よき理解者であり、そして何よりも愛する妻でした。彼女の存在なしに、ルターの宗教改革は成功しなかったかもしれません。

参考文献
徳善義和『マルチン・ルター——信仰と生涯』教文館、2007年。 
徳善義和『マルティン・ルター——ことばに生きた改革者』岩波新書、2012年。 
中村敏『著名人クリスチャンの結婚生活―ルターから三浦光世・綾子夫妻まで』ファミリー・フォーラム・ジャパン、2009年。 
マルテ・リノ 著・寺園喜基 訳「ルターの宗教改革精神と心の回復」『福岡女学院大学大学院人文科学研究科紀要「臨床心理学」』第15巻、福岡女学院大学大学院人文科学研究科、2018年3月31日。

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