カッサシオン

カッサシオン（Kassation, cassazione, cassation）

カッサシオンは、18世紀後半、およそ1750年から1775年頃にかけて隆盛を極めた器楽曲の一形式です。ドイツ語圏を中心に用いられた「Kassation」のほか、イタリア語の「cassazione」、フランス語や英語での「cassation」といった表記が見られます。

形式と用途

この形式は、同時代のセレナーデやディヴェルティメントといった器楽アンサンブルのための楽曲形式と多くの共通点を持っています。複数の独立した小曲が組み合わされた多楽章構成をとるのが典型的です。これらの小曲には、舞曲、行進曲、アリア風の緩徐楽章など、多様な性格を持つものが含まれ、演奏会というよりは、特定の機会や場所のために作曲・演奏される機会音楽としての性格が強いのが特徴です。

カッサシオンは、宮廷や貴族の邸宅における晩餐会、祝賀会、あるいは特別な集まりなど、華やかな社交の場を彩るための音楽として作曲されました。祝典的な雰囲気や娯楽性を重視した、軽快で親しみやすい楽曲が多く見られます。

セレナーデ、ディヴェルティメントとの関係

カッサシオンは、セレナーデやディヴェルティメントと非常に近しい関係にあります。これらの形式は、いずれも多楽章構成のアンサンブル楽曲であり、祝典や社交の場における機会音楽として機能しました。しばしば、演奏される場所によって区分されることがあり、ディヴェルティメントは主に屋内、カッサシオンやセレナーデは屋外での演奏を想定して作曲されたと言われます。しかし、この区別は厳密ではなく、当時の作曲家や音楽家自身もこれらの形式を明確に区別していなかったと考えられています。実際、作品によっては「カッサシオン」と名付けられていながら屋内での演奏も意図されていたり、逆に「セレナーデ」や「ディヴェルティメント」が屋外で演奏されたりすることも珍しくありませんでした。そのため、現代においては、これら三つの形式は実質的に非常に近い、あるいはほぼ同じものと見なされています。名称の違いは、地域的な慣習や作曲家、あるいは出版者の意図に依るところが大きかったと考えられます。

主な作品

カッサシオンという形式で知られる代表的な作品がいくつかあります。

エトムント・アンゲラー
彼の作品とされる「ト長調のカッサシオン」（Cassatui ex G）は、後に「おもちゃの交響曲」として広く知られることになります。この曲の作曲者については、長らくレオポルト・モーツァルト（ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの父）であるという説が有力視されていましたが、近年の研究により、ベネディクト会ザンクト・ペーター修道院の司祭であったエトムント・アンゲラーである可能性が高いとされています。

ヨーゼフ・ハイドン
古典派音楽の確立者であるハイドンも、この形式の作品を残しています。彼の作品リストには、現在4曲のカッサシオンが確認されています。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
若いモーツァルトは、1769年にカッサシオンを3曲作曲しています。
ニ長調 K.100 (62a): この曲は、セレナード第1番と同一の作品であり、カッサシオンとセレナードという名称の区別が曖昧であったことを示す例の一つです。
ト長調 K.63
変ロ長調 K.99 (63a)
これらの初期の作品は、当時のカッサシオンという形式の典型を示しており、その後の彼のセレナードなどの発展につながるものと言えます。

カッサシオンは、短い流行期間ながら、18世紀後半の音楽文化、特に宮廷や貴族社会における社交と娯楽のための音楽として重要な役割を果たしました。その軽妙で華やかな性格は、同時代のセレナーデやディヴェルティメントと共に、古典派音楽の基礎を築く上で一定の影響を与えたと考えられます。

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