カッシーナ (企業)

カッシーナ (Cassina)

イタリアを代表する高級家具メーカーであり、そのルーツは1927年に北イタリア、ミラノ近郊のメーダに遡ります。チェーザレとウンベルトのカッシーナ兄弟によって「アメデーオ・カッシーナ」社として創業されました。当初は手工業による生産が中心でしたが、第二次世界大戦を経て、カッシーナ社は大きな転換期を迎えます。

歴史と発展

戦後、カッシーナ社は外部のデザイナーとの積極的な協働を開始し、その事業範囲を大幅に拡大しました。椅子、アームチェア、テーブル、ソファ、ベッドなど、多様な家具の生産を手掛けるようになり、会社の規模と国際的な名声を確立していきます。特に、クルーズ客船や高級ホテル、著名なレストランといった公共空間や商業施設への家具納入は、同社の発展における重要な柱となりました。1952年には、著名な建築家ジオ・ポンティと共に豪華客船「アンドレア・ドーリア号」のインテリア設計に参画し、これが会社の飛躍的な発展の大きな契機になったとされています。デザインの革新性も高く評価され、1954年にイタリア工業デザインの栄誉ある賞であるコンパッソ・ドーロ賞が創設された際には、カルロ・デ・カルリが設計した椅子が受賞対象の一つとなりました。1960年代半ば以降、カッシーナ社は高級インテリア市場における活動に主軸を置くようになります。

同社の歴史において特筆すべき出来事として、1964年にル・コルビュジエがデザインした家具の製造・販売に関する独占契約を締結したことが挙げられます。これにより、「カッシーナ・イ・マエストリ・コレクション」が誕生し、後に続く偉大なデザイナーたちの作品復刻事業の礎が築かれました。また、1972年にはニューヨーク近代美術館（MoMA）で開催された重要な展覧会「Italy: the New Domestic Landscape」に共催者として名を連ね、国際的なデザイン界におけるプレゼンスを高めます。1991年には、カッシーナ社自体がコンパッソ・ドーロ賞を受賞するなど、デザインと品質への貢献が継続的に認められています。2005年には、同じくイタリアの著名な高級家具グループであるポルトローナ・フラウ・グループの傘下に入り、新たな展開を見せています。2008年には「メイド・イン・カッシーナ」展をミラノで開催し、その巡回展は日本でも好評を博しました。

イ・マエストリ・コレクション

「カッシーナ・イ・マエストリ・コレクション」は、20世紀のモダニズム建築やデザイン史に名を刻む巨匠たちが手掛けた家具の復刻を行う特別なコレクションです。このコレクションは、1964年にル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンという協働者チームがデザインした4種類の家具（LC1、LC2、LC3アームチェア（「グランドコンフォート」として知られるシリーズ）、LC4デッキチェア）の復刻から始まりました。現在に至るまで、カッシーナ社はル・コルビュジエ・デザインの世界的な正規ライセンシーとしての地位を保っています。

コレクションはその後、対象となるデザイナーや作品を拡大していきます。1968年にはベルリンのバウハウス資料館からバウハウス製品の一部の複製権を取得。続いて、1971年にはヘリット・リートフェルト、フランク・ロイド・ライトの作品、1972年にはチャールズ・レニー・マッキントッシュの作品に関する権利を得て、順次復刻品を世に送り出しました（日本での発売は翌年となった作品もあります）。以降も、1983年にはグンナール・アスプルンド、1986年にはフランク・ロイド・ライト財団からライトの家具（1937年のバレルチェアを含む）、そして2004年にはシャルロット・ペリアンの家具をコレクションに加え、その系譜を充実させてきました。2008年には、カッシーナ社が戦後最初に協働した外部デザイナーの一人であるフランコ・アルビニの作品も「イ・マエストリ・コレクション」に加わり、過去と現在のデザインを結びつける重要な役割を担っています。このコレクションは、単なる復刻に留まらず、現代の技術を用いてオリジナルの思想と意匠を忠実に再現し、不朽のデザインを次世代に伝えるというカッシーナ社の哲学を体現しています。

もう一度検索