カティーサーク

カティーサーク：奇跡のティークリッパー

19世紀に建造されたイギリスの快速帆船「カティーサーク」。中国とイギリス間の紅茶輸送を担ったティークリッパーとして、そしてその後はオーストラリアからの羊毛輸送船として名を馳せました。現在はロンドン近郊のグリニッジで保存・展示されており、現存する唯一のティークリッパーとして世界中から注目を集めています。

船名の由来：ロバート・バーンズの詩から

「カティーサーク」という船名は、スコットランド語で「短いシュミーズ」を意味します。その由来は、スコットランドの詩人ロバート・バーンズの詩「タモシャンター」にあります。詩の中に登場する妖精ナニーが身にまとっていた衣装が船名の由来となったのです。カティーサークの船首像は、この妖精ナニーを模しており、手に握られたロープ・ヤーンの束は馬の尾を表現しています。風見鶏も、カティーサークを模したデザインとなっています。

ティークリッパーとしての活躍：紅茶競争の時代

1834年、東インド会社の中国貿易独占が終わり、自由貿易が開始されると、ヨーロッパ各国は中国茶の輸入にしのぎを削るようになりました。特に、高値で取引された一番茶をいかに早くイギリスに届けるかが、船主や船長にとって大きな名誉と利益をもたらす競争となりました。カティーサークは、この紅茶競争、いわゆる「ティーレース」に参戦した数多くのティークリッパーの一つです。

カティーサークは、中国からイギリスまでの航海を107～122日でこなす優れた速力を誇っていました。しかし、最短記録の更新やティーレースでの優勝には至りませんでした。船倉には紅茶が大きなブリキ缶に詰められ、船員はそれらの上に吊るされたハンモックで寝起きするなど、限られた空間の中で、いかに早く高品質の茶を届けるかに全力を注いでいました。

ライバル船「サーモピリー」との競争も激しく、数々の航海でしのぎを削りました。スリリングなレースの中、嵐や舵の損失といった困難にも遭遇しながら、カティーサークは紅茶輸送に貢献しました。しかし、スエズ運河の開通により、蒸気船による紅茶輸送が主流となり、ティークリッパーとしての役割を終えることになります。

ウールクリッパーとしての第二の人生：羊毛輸送

ティークリッパーとしての役割を終えた後、カティーサークはオーストラリアからの羊毛輸送に活躍の場を移します。ウールクリッパーとして、オーストラリアとイギリスの間を何度も往復し、優れた航海技術と積載量で高い評価を得ました。オーストラリアとイギリス間の羊毛輸送において、カティーサークは最速クラスの航海記録を残しています。熟練した船長たちの指揮の下、カティーサークは数々の航海を成功させました。しかし、船長交代や乗組員間のトラブルといった様々な困難にも直面しました。

ポルトガル船時代とイギリスへの帰還

1895年、カティーサークはポルトガルに売却され、「フェレイラ」と改名。ポルトガルとその植民地との間で輸送業務に従事しますが、1916年には嵐によりマストを失い、バーケンティン（帆船の一種）に改造されました。

1922年、イギリス人船長ウィルフレッド・ドウマンによって買い戻され、再び「カティーサーク」と名付けられました。ドウマンの尽力により、3本マスト船の姿を取り戻し、航海学校で練習船として使用された後、1954年にグリニッジに移され、保存展示されるようになりました。

火災事故と奇跡の復元

長年、グリニッジで保存展示されていたカティーサークは、2007年に火災に見舞われます。多くの部分が焼失する大きな被害を受けましたが、幸いにも重要な部品は事前に取り外されていたため、復元が可能となりました。イギリス政府や民間からの多大な支援を受けて、約4600万ポンドを費やし、1869年建造当時の状態に復元されました。2012年には、女王エリザベス2世によって一般公開が再開されました。

現代のカティーサーク

現在、カティーサークはグリニッジで保存・展示され、多くの人々を引きつけています。その壮大な姿と数々の歴史は、人々に夢と感動を与え続けています。かつて紅茶や羊毛を運んだこの船は、未来に向けてその歴史を語り継いでいくでしょう。

もう一度検索