カニクイザル

カニクイザル：東南アジアに生息する知的な霊長類

カニクイザル(Macaca fascicularis)は、オナガザル科マカク属に分類される霊長類です。インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなど東南アジア諸国を中心に広く分布し、人為的な移入によって香港やパラオなどにも生息しています。体長は38～55cm、尾の長さは40～65cm、体重はオスで5～9kg、メスで3～6kgと、中型ザルに分類されます。体毛の色は灰褐色、暗褐色、黄褐色など、亜種によって様々です。頭頂部の毛が房状に伸びる個体もいることから、種小名fascicularis（房状の）がつけられています。

カニクイザルは、5～60頭の群れで生活する社会性の高い動物です。群れには通常、2～5頭のオスが含まれます。群れ内の順位は成熟したオスがメスよりも上位に位置します。メスの妊娠期間は約167～193日で、生まれたばかりの子ザルは黒い体毛ですが、数ヶ月で赤茶色に変わります。

食性は雑食で、果実や種子が主食ですが、葉、花、根、昆虫、小鳥、トカゲ、カエル、魚なども食べます。海岸やマングローブ林に生息するカニクイザルはカニも食べ、これが名前の由来となっています。しかし、カニだけを食べるわけではありません。

天敵としては、トラ、ヒョウ、ウンピョウ、ワシ、ワニ、アミメニシキヘビなどが挙げられます。

カニクイザルは、ヒトと顎関節の形態が似ており、実験動物として広く利用されています。形態学的研究や薬理学的研究だけでなく、宇宙飛行のテスト動物としても用いられてきました。しかし、近年は、農作物への被害や、エボラウイルスなどの感染症の媒介者としての懸念から、世界の侵略的外来種ワースト100に選定されています。

一方、バリ島やタイのロブリなど、一部地域では信仰の対象とされ、寺院や公園に生息するサル（テンプル・モンキー）の多くはカニクイザルです。特に人里周辺では、観光客による餌付けなどが個体数増加の一因となっています。興味深いことに、タイのロブリーに住むカニクイザルの中には、人間の髪の毛をデンタルフロスとして使うものがおり、その行動は親から子へと受け継がれているという報告もあります。

カニクイザルは広い範囲に分布し、生息数も多いことから、以前は絶滅の危険性は低いと考えられていました。しかし、狩猟、実験動物としての捕獲、害獣駆除などによって生息数は減少しており、実際には絶滅の危機に瀕している亜種も存在します。そのため、IUCNレッドリストでは、亜種によって「絶滅危惧II類（Vulnerable）」、「情報不足（Data Deficient）」、「準絶滅危惧（Near Threatened）」に分類されています。日本では特定外来生物に指定されています。

カニクイザルの研究は、霊長類の進化や生態、人間と動物の関係性について理解を深める上で重要な役割を果たしています。しかし、その保全のためには、生息地の保護、持続可能な利用、人との共存のための対策が不可欠です。

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