カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム

ジャズ界を代表するトランペット奏者、ケニー・ドーハムのリーダー作『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』は、1956年にニューヨークの著名なジャズクラブ「カフェ・ボヘミア」で行われたライブ録音を収めた記念碑的なアルバムです。英語のオリジナルタイトルは「'Round About Midnight at the Cafe Bohemia」であり、この名称に倣って『ラウンド・アバウト・ミッドナイト・アット・カフェ・ボヘミア』とも呼ばれることがあります。ジャズの名門ブルーノート・レコードから1957年に発表されて以来、ライブならではの緊迫感とリラックスした雰囲気が同居する独特の魅力で、多くのジャズファンに愛され続けています。

ライブ録音と参加ミュージシャン

この夜の演奏を支えたのは、ケニー・ドーハムのトランペットを中心に据えた豪華な布陣でした。テナー・サクソフォーンにはJ・R・モンテローズ、ピアノにはボビー・ティモンズ、ベースにはサム・ジョーンズ、そしてドラムスにはアーサー・エッジヒルが名を連ねています。また、ギタリストのケニー・バレルも一部のトラックで参加しており、温かみのある音色を加えています。彼ら卓越したミュージシャンたちが、ライブという一回性の場で繰り広げるインタープレイは、聴く者に当時のジャズクラブの熱気と、そこに集う音楽家たちの創造的なエネルギーを鮮烈に伝えてくれます。

多様なリリース形態

本作は、リリース後、様々な形態で世に送り出されてきました。1957年のオリジナルLP（カタログ番号BLP 1524）は6曲構成でしたが、時間の経過と共に、より多くの演奏を収録した編集盤が登場します。特に日本においては、1984年に日本のブルーノート・レーベルから、オリジナルLPには未収録だった別テイクや未発表音源を含む11トラックを収録したLPが、『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム Vol.2』（BNJ 61003）および『Vol.3』（BNJ 61004）として分かれてリリースされました。これらの日本盤は、熱心なリスナーにとって貴重な音源を提供しました。さらに、2002年にはアメリカのブルーノートから、これら3枚のLP盤に収録されていた全17トラック（オリジナル6曲＋Vol.2/Vol.3の追加トラック）を完全に網羅した2枚組CDが登場し、カフェ・ボヘミアでの一夜の演奏のほぼ全てを聴くことが可能となりました。これら主要なリリースの他にも、ボーナス・トラックの収録内容が異なる9曲入りや10曲入りの日本盤CDなど、様々な編集のバージョンが存在しており、このアルバムの根強い人気と多様な聴取ニーズを反映しています。

高い評価

批評家からの評価も非常に高い水準にあります。著名な音楽レビューサイトであるオールミュージックでは、5段階中4つ半の星を与え、その音楽性を「リラックスし、グルーヴに浸るために作られている」と表現しました。さらに、「夜に旅する人や、その日の終わりまでうまくやり遂げたいと思っている人」にとって心地よい伴侶となるだろうと、このアルバムが持つ慰めや安らぎの側面を指摘しています。ジャズ批評における権威ある出版物『The Penguin Guide to Jazz』も、本作に最高の4つ星を与え、「Core Collection」（コレクションの核となるべき重要作）の一つとして選定しています。これらの高評価は、ドーハムの円熟したトランペット演奏、参加ミュージシャンたちの優れたアンサンブル、そしてライブ録音ならではの臨場感が一体となって生み出す、このアルバムの普遍的な価値を明確に示しています。単なるライブ記録にとどまらない、リスナーの心に深く響く音楽体験がここにあります。

結論

『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』は、ケニー・ドーハムという偉大なトランペット奏者のキャリアにおけるハイライトの一つであり、1950年代後半のモダン・ジャズの重要な記録でもあります。時代を超えて多様なフォーマットで繰り返しリリースされている事実は、このアルバムが持つ音楽的な質の高さと、多くの人々にとって特別な意味を持つ作品であり続けていることの証です。ジャズのライブ演奏の魅力を味わいたい方にとって、必聴の一枚と言えるでしょう。

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