カプサイシン

カプサイシンについて

カプサイシン（capsaicin）は、アルカロイドに分類されるカプサイシノイドの一部で、主に唐辛子に含まれ、辛味の元となる化学物質です。学名はトウガラシ属の「Capsicum」に由来します。カプサイシンを特徴づけるのは、バニリン由来のバニリル基を持っている点です。この成分は辛味の指標であるスコヴィル値の基準物質でもあり、食べ物に加えることで刺激的な味わいをもたらします。

特性

カプサイシンは脂溶性の無色結晶で、アルコールに容易に溶けますが、冷水にはほとんど溶解しません。摂取されると、特定の受容体であるTRPV1を刺激し、実際には温度が上昇しないにもかかわらず、強烈な灼熱感を引き起こします。このメカニズムは、メントールによる冷感と類似しています。カプサイシンは痛覚神経を刺激し、辛味を感じさせるだけでなく、脳に運ばれて内臓神経に反応し、副腎からアドレナリンの分泌を促進し、発汗や強心作用も示します。

興味深い点は、カプサイシンの受容体が哺乳類や昆虫には存在しますが、鳥類には反応しないことです。このため、鳥は唐辛子を辛いとは感じずに食べることができ、種子の伝播に寄与しています。

毒性

カプサイシンの経口摂取におけるLD50は47.2mg/kg、皮膚からの吸収では512mg/kgとされています。

ただし、カプサイシン単体の発がん性は不明で、一部の研究では他の物質の摂取が癌の発生を促進する可能性が示唆されています。逆に、がん細胞のアポトーシスを誘導するとの報告もあります。また、カプサイシンの大食いにより脳血管攣縮を引き起こした事例があることも知られています。

歴史

カプサイシンは1816年、Christian Friedrich Bucholzによって最初に抽出され、その後1876年にはJohn Clough Threshがほぼ純粋な形でカプサイシンと命名しました。1898年にはKarl Mickoが純粋な形で単離に成功し、1919年にはE. K. Nelsonが化学式を決定しました。カプサイシンの合成は1930年にE. SpathとS. F. Darlingによって実現されました。1997年にはTRPV1の存在がカプサイシンを用いた実験で発見され、デヴィッド・ジュリアスが2021年にノーベル賞を受賞しました。

カプサイシノイド類

カプサイシンはトウガラシに含まれる主要なカプサイシノイドで、その他にはジヒドロカプサイシンが存在します。この二つの化合物は、辛さを感じさせる強さで差があり、味わいにバリエーションを2倍もたらします。カプサイシンはバニリルアミンと脂肪酸から合成されており、この過程は特定の遺伝子に依存しています。

利用

医薬品

カプサイシンはTRPV1のアゴニストです。これを利用することで、痛みの伝達が抑制され、帯状疱疹後の疼痛や糖尿病性神経障害の痛みを軽減するためにカプサイシンクリームが使用されています。

一方で、カプサイシンの塗布による副作用である焼けるような痛みがあるため、さまざまな新しい鎮痛薬の開発も行われています。カプサイシンはまた、湿布や外用消炎鎮痛剤としても利用されています。

医学品以外

ダイエット効果や健康へのメリットが耳目にされることもありますが、国立健康・栄養研究所によれば、十分な臨床的根拠は乏しい状況です。また、カプサイシンは催涙スプレーやトウガラシ忌避剤の成分としても利用されており、防御用のアイテムとしても側面を持っています。さらに、誤嚥性肺炎の防止や魚類の病気に対する治療法としても研究されていますが、あくまで予防的な効果にとどまります。

以上がカプサイシンについての基本的な情報です。辛味だけでなく、様々な生理作用や利用法があるこの化合物は、今後も研究が続けられることでしょう。

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