カム・オン

チャック・ベリー「カム・オン」とローリング・ストーンズのデビュー

チャック・ベリーによって1961年に発表された楽曲「カム・オン (Come On)」は、彼のシングル「Go Go Go」のB面曲として世に出ました。アメリカではチャート入りしませんでしたが、イギリスでは38位を記録するなど、一定の成功を収めました。しかし、この曲の真のインパクトは、後のアーティスト、とりわけローリング・ストーンズによるカバーで発揮されることになります。

ローリング・ストーンズによるカバー：苦悩のデビューシングル

1963年6月、ローリング・ストーンズはキャリアの幕開けをこの「カム・オン」で飾りました。B面にはウィリー・ディクスンの「アイ・ウォント・トゥ・ビー・ラヴド」が収録されています。イギリスのチャートでは21位まで上昇しました。

このデビューシングルは、バンドメンバーにとって決して容易な選択ではありませんでした。当時、R&Bバンドとしての活動を志向していた彼らにとって、「カム・オン」は彼らが理想とするサウンドとは異なるものでした。しかし、所属レコード会社デッカ・レコードからの「売れ筋の曲でなければならない」という強い要請を受け、メンバーは渋々この曲を選びました。

特にミック・ジャガーは、マネージャー兼プロデューサーのアンドリュー・オールダムと激しい議論を交わしたと伝えられています。この曲は評論家からも好意的に迎えられることはなく、『メロディー・メーカー』誌は「ストーンズらしくない。売れ線ではあるが、ファンが望んでいた強烈なR&Bサウンドではない」と酷評しました。ベースのビル・ワイマンもこの批評を「最も正確な批評」と評しており、ジャガー自身も「『カム・オン』はいい出来とは思えない」と語っています。

この複雑な経緯から、「カム・オン」はライブで演奏される機会は非常に少なく、コンピレーションアルバムへの収録も少ない楽曲となりました。アメリカでは1972年の編集アルバム『モア・ホット・ロックス』で初めて収録されました。

生演奏と、現代における評価

バンドメンバーは、この曲への不満から、ライブでの演奏を長らく拒否していました。結果として、「カム・オン」がライブで演奏されたのは、デビューから1965年までのわずか2年間だけだったのです。2002年の「リックス・ツアー」の練習中にロン・ウッドが演奏を提案した際、メンバーは演奏方法を忘れていたという逸話も残っています。

2017年に発売されたライブアルバム『オン・エア』には、1963年10月にBBCラジオの番組「サタデー・クラブ」のために録音された「カム・オン」のライブバージョンが収録されています。このバージョンは、オリジナルとは若干異なるアレンジが施されています。

「カム・オン」は、ローリング・ストーンズのキャリアにおいて、成功への道のりを象徴する曲であると同時に、バンドとレコード会社との軋轢、そしてバンド自身の音楽性に対する葛藤を示す、複雑な歴史を持つ曲と言えるでしょう。この曲は、彼らの初期の苦悩と、後の成功への伏線を秘めた、重要な一曲なのです。

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