カメムシ亜目

カメムシ亜目：多様な姿と驚くべき生態

カメムシ亜目（学名：Heteroptera）は、昆虫綱カメムシ目（半翅目）に属する大きな分類群です。カメムシ目はこの亜目とヨコバイ亜目の二つに大別されます。一般に「カメムシ」と呼ばれる昆虫の多くが含まれますが、タガメやアメンボ、グンバイムシなど、その姿や生態は多岐にわたり、必ずしも名前に「カメムシ」が付かない種類も数多く存在します。近年の分子系統解析からは、ヨコバイ亜目の中のある系統から分かれて進化したと考えられています。

この亜目の大きな特徴の一つは、前翅の構造です。かつて異翅亜目（いしあもく）とも呼ばれた名称の由来ともなっており、前翅の根元側がおおよそ半分ほど厚く硬くなり、先端側の薄い膜質部分と明確に区別されます。昆虫が翅を背中に畳む際、カメムシ亜目の種は膜状の後翅を折り畳み、その上にこの特殊な構造を持つ前翅を左右交互に重ねて収納します。これにより、胸部から腹部の背面全体がほとんど翅で覆われます。特に、中胸背板の一部が発達した三角形の部分は背盾板と呼ばれ、マルカメムシ科やキンカメムシ科ではこれがさらに大きく広がり、腹部全体を覆い隠す種類もいます。

カメムシ目全体の共通特徴である、食物を摂取するための針状の細い口針と、それを覆う鞘状の口吻も、カメムシ亜目において多様な形態と機能を示します。植物の汁を吸う植食性の種では、口吻は細長くまっすぐですが、他の小動物などを捕食する肉食性の種では、口吻はしばしば太くて短く、鉤のように曲がっています。

頭部は一般的に先が尖った三角形で、基部の左右には複眼があります。多くの種では複眼の間に三個の単眼を持ちますが、カスミカメムシ科の大部分では単眼がありません。触角は、陸生の種では細長いものが多い一方、水生、特に水中生活に適応した種では太短く、体のくぼみに折り畳んで収納できるものもいます。

三対の脚も、その生活様式に応じて多様に進化しています。陸生の植食性の種では目立った特徴がないことが多いですが、肉食性の種では、獲物を捕らえるために前脚が太く発達するものが見られます。水生の種の多くは肉食性で、前脚が捕獲用に発達すると同時に、中脚と後脚が水中での遊泳に適した形に変化しています。また、一部の陸生の種では、雄の後脚が太く、刺々しく発達し、同種内の雄同士の争いに用いられることもあります。

多様な生態と生活史

カメムシ亜目の生息環境は驚くほど多様です。植物の上で暮らす種だけでなく、地上や地中に生息するもの、水辺や水面、水中を生活の場とするものまで存在します。さらに、ウミアメンボのように海水面に適応した種もおり、これは昆虫の中でも数少ない海での生活者です。

生活史は不完全変態で、蛹の期間を経ることなく、幼虫が脱皮を繰り返して成虫になります。幼虫は基本的に成虫と似た姿で、ほぼ同じ生活を送ります。多くの種では卵をまとめて産みつけますが、この卵塊に、孵化した幼虫が摂取することで栄養摂取を助ける共生微生物のカプセルが付着していることが知られています。また、ツノカメムシ科やツチカメムシ科、コオイムシ科など、複数のグループで雌親が産み付けた卵塊を保護する習性が見られます。孵化直後の幼虫がしばらく集団で行動する種も存在します。

驚くべき食性の多様性

カメムシ亜目の食性は非常に幅広く、植食性、肉食性、菌食性、藻食性、そして吸血性と多岐にわたります。植食性の種には、農作物の汁を吸うなどして農業上重要な害虫となるものが数多く含まれます。一方、肉食性の種はアブラムシなどの農業害虫を捕食する益虫として見なされることもありますが、ヒトを刺して強い痛みを引き起こす衛生害虫や、養殖魚に被害を与えるもの、さらには植物と他の昆虫の両方を食べることで害虫とされるものもいます。吸血性の種の中には、シャーガス病などの寄生虫病を媒介するものも知られています。

植食性の種は、一般的に食草や食樹の上で生活します。ツチカメムシ科のように地上で暮らし、落ちている種子や果実の中の種子から栄養を得るものもいます。また、植物の成長に影響を与え、虫こぶを作らせる種類も存在します。

植食性の摂食方法には多様な戦略が見られます。例えば、種子の胚乳や子葉、果肉、葉肉など、組織内に蓄えられた栄養を摂取する多くの種は、口針で組織を傷つけながら消化酵素を含む唾液を注入し、体外で消化して液状になった内容物を吸い込みます。カスミカメムシ科には植食性と肉食性の両方の性質を持つ種が多いですが、植物を食べる際には成長点付近の若い組織に口針を刺し、ペクチン分解酵素を含む唾液で細胞間の接着成分であるペクチンを分解し、細胞をバラバラにして吸い込みます。その結果、吸汁された葉が開くと穴だらけになります。ヘリカメムシ科の一部には、茎に口針を刺し、スクロース分解酵素を含む唾液を注入して細胞外のスクロースを分解し、浸透圧の変化で細胞内から溶け出した栄養素を吸収するという非常にユニークな摂食法をとる種がいます。激しく吸汁された植物組織は水分を失い、しおれてしまうことがあります。

肉食性の種は、餌を探して歩き回ったり、待ち伏せたりして獲物を捕らえます。獲物の体内に口針を刺し、麻痺性の毒素と消化酵素を注入して体組織を液化し、それを吸収します。サシガメ類などがヒトを刺すと非常に強い痛みを伴いますが、体外消化を行うゲンゴロウの幼虫に噛まれた場合と異なり、広範な組織壊死は起こりにくいことから、神経毒と消化液は別に注入される可能性が指摘されています。一部の種は哺乳類や鳥類の血液を吸う吸血性となり、大型動物の巣に定着するものもいます。トコジラミ（ナンキンムシ）は、人の住居に現れ、夜間に吸血することで有名です。

菌食性の種は朽ち木などに生息します。ヒラタカメムシ科は朽ち木の中で木材腐朽菌の菌糸を食べていると考えられており、頭部内に非常に長い口針を収納しています。水生カメムシ類のミズムシ科の多くは植食性で、藻類の細胞に口針を刺して細胞質を吸収します。

特徴的な悪臭

多くのカメムシ類は特有の不快な臭いを放つことで知られています。この臭いは、外敵からの防御だけでなく、仲間への危険信号や集合の合図としても機能することが知られています。臭い物質は臭腺と呼ばれる器官から分泌され、幼虫では背面に、翅で覆われる成虫では腹面に開口部があります。トコジラミやアメンボなども臭いを発しますが、その具体的な機能はまだ十分に解明されていません。

分類

カメムシ亜目には非常に多くの科が含まれ、形態や生態に基づいていくつかの下目や上科に分類されます。陸上で比較的大きな種は一般に「カメムシ」と呼ばれますが、水中生活をするグループを「水生カメムシ類」、水面や水辺で生活するグループを「両生カメムシ類」と呼び分けることもあります。多様な形態と生態を持つこの亜目は、昆虫の中でも特に興味深いグループの一つと言えるでしょう。

カメムシ下目には多くの馴染み深い「カメムシ」が含まれ、ヘリカメムシ上科やナガカメムシ上科なども属します。トコジラミ下目にはサシガメやグンバイムシ、トコジラミなどが含まれます。水生カメムシ類はアメンボ下目（アメンボ、タイコウチ、タガメなど）やタイコウチ下目（ミズムシ、マツモムシなど）に分けられます。

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