カライェル

カライェル：トルコ競馬史に輝く無敗の英雄

カライェル（Karayel、1970年 - 2000年?）は、その圧倒的な強さでトルコ競馬史に名を刻んだ伝説的な競走馬です。デビューから引退まで18戦無敗という記録を打ち立て、三冠を達成。その卓越した能力は、種牡馬としても開花し、数々の名馬を輩出しました。彼の功績は、トルコ競馬におけるエクリプス賞とも言える「カライェル賞（Karayel Ödülleri）」として、今も称えられています。

馬名の由来は、トルコの北西から吹く冷たく湿った風「カライェル（黒い風）」から来ています。その名の通り、漆黒の馬体がターフを疾走する姿は、見る者を魅了しました。

生い立ち

カライェルは、トルコ競馬界の重鎮であるサドゥク・エリイェシルの牧場で生まれました。エリイェシルは、ガジ賞（トルコダービー）を13勝もした名オーナーブリーダーです。幼い頃のカライェルは、特に目立つ存在ではありませんでしたが、2歳になり調教が始まると、その潜在能力を開花させます。放牧中の姿は、1歳年上の有力馬アッコル（Akkor）と見間違えるほど、堂々とした馬格を備えていました。

無敗の戦績

1972年9月、カライェルはイスタンブール・ヴェリエフェンディ競馬場の芝1100m未勝利戦でデビュー。鞍上には、三冠牝馬ミニモやアッコルにも騎乗していたベテラン、エクレム・クルトを迎えました。期待に応え、カライェルは見事な勝利を飾ります。その後、バルタジュ賞を制し、アンカラ競馬場へ転戦。クルト騎手を鞍上に迎え、アンカラの重賞を3連勝。2歳G1チャルディラン賞では、圧倒的な強さを見せつけました。

3歳となった1973年、カライェルの勢いは止まりません。G3アキフ・アクソン賞を皮切りに、G2エルケック・タイ・デネメ（トルコ2000ギニー）を制覇。そして迎えた6月、トルコ競馬最大の祭典、ガジ賞（トルコダービー）。単勝1.05倍という圧倒的な支持を受け、1番人気に推されたカライェル。レースでは、逃げるオフィーリア（Ophelia）がスローペースで逃げる展開となりました。直線に入ってもその差はなかなか縮まらず、関係者も敗北を覚悟したほどでした。しかし、カライェルはここから驚異的な末脚を発揮。残り150mでオフィーリアを捉え、4馬身差をつける圧勝劇を演じました。

勢いに乗るカライェルは、9月のG1アンカラ賞（トルコセントレジャー）も制し、無敗で三冠を達成。その後も、古馬混合G1競走を4連勝し、その強さを誇示しました。

欧州挑戦、そして引退

4歳となった1974年、馬主のエリイェシルはカライェルをイギリスに移籍させ、欧州の大レースに挑戦させることを決意します。しかし、当時のトルコの検疫体制の問題から、現役競走馬の輸出は困難でした。手続きに時間を要している間、カライェルは国内の重賞を2戦し、無敗記録を18に伸ばしました。しかし、渡航を目前に控えた調教中に骨折。治療により競走能力が回復する可能性もありましたが、エリイェシルはカライェルを引退させる決断を下しました。

種牡馬としての成功

引退後、カライェルは種牡馬として新たな道を歩み始めます。種牡馬期間は長かったものの、エリイェシル牧場が交配を制限していたため、産駒数は84頭と多くはありません。しかし、その中から父子三冠を達成したセレン（Seren I）をはじめ、数々の活躍馬を輩出しました。惜しむらくは、サイアーラインが孫世代以降に繋がらず、21世紀には種牡馬リーディングから姿を消してしまったことです。

カライェルの死亡時期は正確には分かっていませんが、トルコのスタッドブックには30歳となる2000年1月1日が死亡日として登録されています。

主な産駒

マヒヌール（Mahinur） - 1979年ディシ・タイ・デネメ（トルコ1000ギニー）、クスラック賞（トルコオークス）
ヤヴチャ（Yavça） - 1981年ディシ・タイ・デネメ、クスラック賞
カラニモ（Karanimo） - 1982年アンカラ賞（トルコセントレジャー）、1984年・1985年大統領賞
セレン（Seren I）- 1983年三冠、1983年・1985年・1986年トルコジョッキークラブ賞、1984年・1985年・1986年首相賞
カルタヘナ（Cartegena） - 1983年チャルディラン賞、1984年エルケック・タイ・デネメ（トルコ2000ギニー）、ガジ賞（ガジダービー）
ギズモ（Gizmo） - 1990年アンカラ賞
* フーゴ（Hugo） - 1993年トルコジョッキークラブ賞

血統

カライェルの半弟には、1986年の三冠馬ハーフズ（Hafız）がいます。父プリンステューダー（Prince Tudor）は、1961年の英2000ギニー2着馬。ハイペリオン系に属し、マイラーの血統を受け継いでいますが、種牡馬としてトルコに輸入されると、カライェルをはじめとする長距離で活躍する産駒を多く輩出しました。

カライェルの名は、今もトルコ競馬史に燦然と輝いています。

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