カラ・クムの戦い

カラクムの戦い：13世紀初頭の東西衝突

13世紀初頭、中央ユーラシアではモンゴル帝国とホラズム・シャー朝という二大勢力が台頭していました。モンゴル高原を統一したテムジン（チンギス・カン）率いるモンゴル帝国は勢力を拡大し、中央アジアのホラズム・シャー朝のアラーウッディーン・ムハンマドもまた、広大な領土を支配していました。両勢力はアルタイ山脈から天山山脈にかけて、かつてモンゴルに滅ぼされたメルキト部やナイマン部の残党勢力と対峙することになります。

チンギス・カンは、1216年にモンゴル高原に帰還後、西方で勢力を伸ばすメルキト・ナイマン残党の動きを察知します。チンギス・カンは、スブタイ、ボロクル、ジェベらに率いられた軍団をそれぞれメルキト部、反乱を起こした森林の民、ナイマン部へと派遣しました。しかし、ボロクル軍は奇襲を受け壊滅状態となり、チンギス・カンは長男のジョチを1218年に救援として派遣します。ジョチはスブタイらと協力し、反乱を鎮圧しました。一方、メルキト残党の一部はキプチャク草原東端に逃亡し、モンゴル軍は追撃の過程でホラズム朝の領域に侵入します。

この頃、アラーウッディーンもメルキト残党の動きを把握しており、モンゴル軍の西進も知ると、モンゴル軍に打撃を与える機会と捉え、サマルカンドから精鋭軍を集めて北上します。こうして、メルキト残党討伐という共通の目的で出兵した両軍は、カラクムで激突しました。

カラクムの戦いの推移

ホラズム軍は戦場跡で多数のメルキト兵の死骸を発見し、モンゴル軍がすでに戦場を離れた直後であることを知ります。ホラズム軍はモンゴル軍を追撃し、カラクムで遭遇します。モンゴル軍は戦闘に消極的でしたが、ホラズム軍の攻撃を受け、戦闘が始まりました。

ジュヴァイニーの『世界征服者の歴史』によると、両軍は伝統的な遊牧国家の三軍体制（右翼、中央、左翼）で戦闘に臨みました。モンゴル軍の右翼が優勢となり、アラーウッディーン率いる中央軍は危機に陥ります。ホラズムの王子ジャラールッディーン・メングベルディーが救援に駆けつけ、アラーウッディーンは危機を脱しましたが、日没とともに戦闘は膠着状態となり、決着が付かないまま両軍は撤兵しました。

この戦闘は、従来は1216年説が有力でしたが、近年、杉山正明らの研究により、1219年に行われ、モンゴルのホラズム侵攻と密接に関わっていたことが明らかにされています。『元史』のスブタイ伝にもこの戦いを裏付ける記述が見られます。

戦いの影響

カラクムの戦いは、両国の戦略に大きな影響を与えました。モンゴル側はホラズム軍の実力を認識し、自信を深めます。一方、ホラズム側は野戦でのモンゴルの強さを目の当たりにし、自信を失いました。

アラーウッディーンは、この戦いの敗北が原因となり、後のモンゴルのホラズム侵攻では自ら軍を率いることなく、オアシス都市への籠城戦を採ることになります。また、従来はモンゴル軍がオトラルで合流してから各部隊に分かれて攻撃したとされていましたが、杉山正明はカラクムの戦い後のジョチ軍の動きを分析し、ジョチ軍はオトラルで他の軍と合流せず、そのままホラズム領侵攻に加わった可能性を示唆しています。

カラクムの戦いは、13世紀初頭の東西衝突を象徴する戦闘であり、モンゴル帝国の西征における重要な出来事の一つです。この戦闘の再解釈は、モンゴル帝国の歴史理解を大きく変える契機となりました。

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