カリフォルニア・ミッション

カリフォルニア・ミッション（英語: Spanish missions in California、スペイン語: Pueblo de misión）とは、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、スペインのカトリック教会フランシスコ会が現在の北米カリフォルニア州に設立した一連の宣教施設およびその活動全体を指します。

この活動は、スペインによる新大陸、特に太平洋岸北西部への領土拡大と植民地支配を推進するための重要な手段でした。1769年から1823年にかけて、合計21ヶ所の主要な伝道所が建設され、それに加えて多くの補助施設や軍事的な前哨基地が各地に築かれました。

設立の背景と目的

スペインはクリストファー・コロンブスの新大陸「発見」以降、ヌエバ・エスパーニャ（メキシコ副王領）におけるカトリック布教に熱心でした。これは、宗教的な目的だけでなく、先住民をスペイン文化に同化させ、植民地支配を容易にするための政策でもありました。しかし、カリフォルニア地域は地理的に遠隔であったため、その開発は後回しになっていました。

状況が変化したのは1741年、ロシア帝国の探検家ヴィトゥス・ベーリングがアラスカに到達し、ロシアが北米大陸への野心を持つことが明らかになったためです。これに危機感を抱いたスペイン王室は、カリフォルニアを確実に支配する必要性を痛感しました。当時のスペイン王フェリペ5世、そして後を継いだカルロス3世の治世下で、カリフォルニアへの本格的な進出が計画されました。

この計画の目的は多岐にわたりました。まず、先住民族をカトリックに改宗させること。そして、彼らにスペイン語を習得させ、スペインの制度の下で納税義務を負わせることでした。当時、カリフォルニアには約30万人の先住民族が100以上の部族に分かれて暮らしていたとされます。

1767年には、カルロス3世の布告により、バハ・カリフォルニアで活動していたイエズス会修道士が追放され、代わりにフランシスコ会が布教の担い手となりました。特に、ホセ・デ・ガルベス将軍の指示の下、フランシスコ会のフニペロ・セラがアルタ・カリフォルニア（現在のカリフォルニア州）での布教活動の指揮を執ることとなりました。

伝道所の活動と影響

伝道所は、単なる教会施設ではなく、農業、牧畜、手工業の中心地であり、地域社会の核となる存在でした。ヨーロッパからもたらされた多様な家畜、穀物、果物、野菜、そして新たな農耕技術や産業が導入されました。これにより、カリフォルニアの景観や生活様式は大きく変化しました。

一方で、伝道所は先住民に対して大きな影響を与えました。彼らは伝道所に集められ、「ミッション・インディアン」と呼ばれてカトリックの教義やスペイン語、そしてヨーロッパ式の労働習慣を学ぶことを強いられました。特にフニペロ・セラは数多くの伝道所を設立し、多くの先住民を改宗させましたが、その強硬な宣教方法や先住民の自由を制限したことについては、現在でも批判の対象となっています。

また、スペイン人の進出とそれに伴う武力衝突、そしてヨーロッパからもたらされた麻疹や天然痘といった伝染病に対して、免疫を持たない先住民の人口は激減しました。伝道所の時代は、文化や技術の交流があった一方で、先住民にとっては苦難の時代でもありました。

伝道所の建設は当初10ヶ所ほどで停止する可能性がありましたが、修道士フェルミン・ルスエンが各伝道所の距離が離れすぎていることを主張し、さらなる建設が進められたという経緯があります。

運営から終焉へ

初期の伝道所は、自給自足が困難であり、メキシコの信者からの寄付に大きく依存していました。しかし、1810年に始まったメキシコ独立革命の影響で、この援助は途絶えてしまいます。伝道所は自立を迫られ、その労働力の中心は次第にミッション・インディアンとなっていきました。

1821年にメキシコがスペインから独立した後も、しばらくは伝道所の体制が維持されました。しかし、1833年、メキシコ政府はスペインの影響を排除するため、政教分離を推し進めます。伝道所の所有する広大な土地は政府に接収され、メキシコ系住民に払い下げられることとなりました。これにより「ミッション時代」は終わりを迎え、「ランチョ時代」へと移行します。

多くの伝道所はこの過程で放棄され、一時的に荒廃しましたが、19世紀後半に入ると、歴史的価値が見直され、再建や修復が進められました。

王の道

これらの伝道所は、互いに馬で一日の行程（約48km）を目安に配置されました。最も北の伝道所から南の伝道所までの距離は約966kmにも及び、これらは「エル・カミーノ・レアル（王の道）」と呼ばれる簡素な道で結ばれていました。伝道所の修道士たちは、この道の両脇にマスタードの種を蒔く習慣があったと伝えられており、かつては黄色い花が咲き誇る道であったとも言われています。

現在のカリフォルニア・ミッション

現在、これら21ヶ所の伝道所は、カリフォルニア州において最も古く、人気の高い歴史的建築物群となっています。その大部分は今もカトリック教会として機能しており、地域のカトリック信者たちの信仰の場であると同時に、多くの観光客や歴史愛好家が訪れる重要な史跡となっています。伝道所は、カリフォルニアの歴史において、スペイン植民地時代、メキシコ時代、そしてアメリカ時代へと移り変わる激動の時代を物語る貴重な遺産です。

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