太平洋岸北西部:多様な魅力が織りなす北米の広域
太平洋岸北西部(Pacific Northwest)は、北米大陸の北西部に位置する広大な
地域です。
アラスカ州南部から
カナダの
ブリティッシュコロンビア州、そして
アメリカ合衆国の
ワシントン州、
オレゴン州、
アイダホ州の一部にまで広がり、
太平洋に面した海岸線から内陸の高山地帯まで、多様な地理的特徴を有しています。その範囲は、時に
カナダの北西部準州や
アメリカ合衆国の北西部領土と混同されるため、注意が必要です。海岸部のみを指す「北西部海岸」、内陸の高原地帯を指す「北西部高原」といった、より狭い
地域区分も存在します。
地理的特徴と生態系
この
地域は、海岸山脈、
カスケード山脈、オリンピック山脈など、複数の山脈が連なり、複雑な地形を形成しています。最高峰は
ワシントン州にあるレーニア山(標高4,392m)です。海岸部には世界最大の温帯多雨林の一つである
太平洋暖帯多雨林が広がり、一方、山脈の東側内陸部は乾燥した気候となっています。
コロンビア川流域は、氷河期の洪水によって形成された独特の地形を呈し、多様な動植物が生息する豊かな生態系を育んでいます。
歴史:探検から領土紛争、そして発展
16世紀以降、ヨーロッパ人の探検が本格化しました。
スペイン、
イギリス、ロシア、フランスなど、多くの国が探検隊を送り込み、この地の富と領有権を争いました。18世紀後半から
19世紀にかけては、
スペイン、
イギリス、ロシア、
アメリカ合衆国による領土紛争が続きました。
1846年の
オレゴン条約によって、
アメリカ合衆国と
イギリス(
カナダ)の間での境界線が確定したものの、その後も国境問題や領土に関する軋轢は続き、20世紀になっても「サーモン戦争」などの紛争が発生しています。
開拓時代を経て、
太平洋岸北西部は木材、鉱業、農業、水力発電などを基盤として経済発展を遂げ、近年ではハイテク産業やEコマースも盛んです。バンクーバー、
シアトル、ポートランドといった大都市は、それぞれ独自の産業や文化を育み、世界的な経済の中心地として成長しています。
文化:多様な民族と革新的な思想
太平洋岸北西部は多様な文化が混在する
地域です。先住民の文化、ヨーロッパからの移民文化、そしてアジアからの移民文化などが融合し、独特の文化圏を形成しています。近年はアジアからの移民の流入が著しく、
地域の文化的景観にも変化が現れています。政治的には、特に海岸部の大都市では環境保護主義やリベラルな思想が強く、
リサイクルや
公共交通機関の利用などが盛んです。一方で、内陸部ではより保守的な傾向が見られます。
この
地域は、
グランジ音楽やオルタナティブロックの発祥地としても知られ、音楽シーンも活発です。豊かな自然環境を生かしたアウトドアアクティビティも盛んで、スキー、
スノーボード、登山、
ハイキングなど、多くのレクリエーションが楽しまれています。
経済:多様な産業と豊かな資源
太平洋岸北西部は多様な産業を持つ経済圏を形成しています。
農業: ワシントン州のリンゴ、アイダホ州のジャガイモ、オレゴン州のチーズなど、高品質な農産物を生産しています。
航空宇宙産業: ボーイング社など、世界的に有名な航空宇宙企業の本拠地となっています。
ハイテク産業: マイクロソフト、アマゾンなど、多くのIT企業が進出し、シリコンフォレストとも呼ばれる活気ある産業クラスターを形成しています。
水力発電: コロンビア川などの豊富な水資源を活用した水力発電が盛んです。
木材産業: 豊富な森林資源を背景にした木材産業が古くから発展しています。
漁業: サケ、カニなど、豊富な水産資源に恵まれています。
*
観光業: 美しい自然や国立公園などを観光資源とした観光業も重要な産業です。
かつてアルミ精錬が重要な産業でしたが、21世紀初頭には衰退しました。
宗教と思想:多様な信仰と新興宗教
太平洋岸北西部は、キリスト教の伝来が比較的遅かった
地域ですが、多様な宗教や思想が共存しています。キリスト教系の慈善団体や教会、そして
仏教、
ヒンドゥー教、イスラム教などの寺院、さらに
ニューエイジ思想やネオパガニズムなどの新興宗教も存在し、多様な信仰観が認められています。
言語:英語と先住民の言語、そして移民言語
英語が主要言語ですが、先住民の言語や、アジアからの移民に伴って
中国語、パンジャーブ語なども使われています。チヌーク言語は、かつてこの
地域で交易言語として用いられていた
ピジン言語で、その影響は現在でも地名などに残っています。
太平洋岸北西部は、地理的にも文化的にも多様な
地域であり、その発展は今後も続いていくでしょう。 今後、この
地域がどのように変化していくのか、注目されます。