カルタヘナの港、要塞、歴史的建造物群

コロンビア北部のボリバル県に位置する港湾都市カルタヘナに残るこれらの建造物群は、ユネスコの世界遺産として登録されています。かつてスペイン人によって「インディアスの真珠」と称えられるほどの繁栄を誇ったカルタヘナには、スペイン植民地時代の堅固な要塞と、当時の面影を伝える美しい建築物が数多く現存しています。今日でも「コロンビアでもっとも美しい港街のひとつ」として知られています。

歴史的背景

カルタヘナは、1533年6月にペドロ・デ・エレディアによって建設されました。カリブ海に面し、複数の潟湖が存在する地形は天然の要害となり、港町としての絶好の条件を備えていました。都市は急速に発展し、1542年にアメリカ先住民の奴隷化が禁じられた後は、南米大陸のプランテーションや鉱山で働く労働力として、アフリカから強制的に連れてこられた黒人奴隷の主要な受け入れ港となりました。また、この港は、アメリカ大陸で産出された金、銀、タバコ、カカオといった貴重な物資をスペイン本国へ輸送するための重要な積み出し拠点としても機能しました。

こうした経済的な繁栄は、しばしば海賊や他国の標的となりました。特に1586年には、フランシス・ドレークによる攻撃を受け、街は一時占領されました。莫大な賠償金を支払うことで事態は収拾されましたが、スペインはこの事件を機に、防衛施設の強化に乗り出します。同年、当時国内屈指の城砦建築家であったバウティスタ・アントネッリに命じ、強固な要塞の建造を開始しました。17世紀にかけて要塞の建設は続き、周辺にも多くの要塞群が築かれました。これらの大規模な防衛施設の建設には、推定30万人もの黒人奴隷が動員されたと伝えられています。築かれた堅牢な防衛線は、1741年のイギリス海軍による大規模な包囲攻撃にも耐え抜き、その戦略的重要性を証明しました。これらの要塞群は現在も良好な状態で保存されており、当時の高度な軍事建築技術を今に伝えています。

カルタヘナの歴史地区は、その価値が認められ、1959年にコロンビアの国定史跡に指定されました。なお、カルタヘナから約60km離れた場所には、かつてカルタヘナから逃亡した奴隷たちが築き、スペイン当局との度重なる抗争の末、1713年に自由集落として正式に認められた村、パレンケ・デ・サン・バシリオがあります。この村は、アフリカのルーツに根ざした文化遺産として、ユネスコの無形文化遺産にも登録されており、毎年開催されるドラム・フェスティバルには国内外から多くの観光客が集まります。

主要な構成要素

この世界遺産は主に、強固な要塞群と歴史的な旧市街によって構成されています。

要塞群

16世紀から18世紀にかけて、カルタヘナの要塞建設には、バウティスタ・アントネッリのほか、フアン・デ・エレラ・イ・ソトマヨル、アントニオ・デ・アレバロなど、当代を代表する軍事建築家たちが数多く関わりました。最初の防衛施設として16世紀末に建設が始まったのは、旧市街を囲む城壁です。この城壁は時代と共に補修・増築が繰り返され、1735年に現在の姿となりました。高さ約12m、厚さ約17m、総延長約4kmに及び、聖人の名を冠した稜堡が多数設けられ、有事の際に市民が避難するための地下通路なども備えられていました。

さらに、湾や潟湖の各入口には、サン・ルイス、サン・ホセ、サン・フェルナンドといった堅牢な要塞が築かれました。これらの要塞群の中核を担ったのが、1657年に完成したサン・フェリペ要塞です。その後も改良が加えられ、現在の姿がほぼ完成したのは18世紀です。この要塞は「南米大陸におけるスペイン工兵技術の傑作」と評されるほどの堅固さを誇り、1741年にブラス・デ・レソ提督率いる寡兵が、数倍に上るイギリス海軍の猛攻を退けた歴史的な攻防戦において、極めて重要な役割を果たしました。サン・フェリペ要塞の前には、この戦いで片眼、片腕、さらには片足まで失いながらも奮戦したレソ提督を称える像が建てられています。要塞内部は迷路のように複雑な通路が巡らされており、その歴史の中で一度も敵に陥落させられることはありませんでした。

旧市街

16世紀の計画に基づき形成された旧市街は、サン・ペドロ地区（中心部）、その北東に位置するサン・ディエゴ地区、そして南東の小島にあるヘトセマニ地区から構成されています。

特にサン・ペドロ地区には、重要な歴史的建造物が集中しています。ボリーバル広場に面する大聖堂は、1575年から1612年にかけて建造されました。途中でフランシス・ドレークの攻撃により損傷を受けましたが、損壊部分は1923年に修復されています。同じく広場に面する旧宗教裁判所は、1601年に建設が始まりましたが、現在見られるバロック様式の入口やコロニアル様式のバルコニーを備えた建物は、1770年に改築されたものです。広場から離れたサン・イグナシオ稜堡の近くには、イエズス会のサン・ペドロ・クラベール修道院が残っています。これは1603年に建てられた修道院で、黒人奴隷への慈善活動に生涯を捧げ、後に列聖されたスペイン人修道士ペドロ・クラベールの名を冠しています。彼の遺体は、この修道院に安置されています。他にも、1579年に建設され、現在は神学校として利用されているサント・ドミンゴ教会などの歴史的建造物を見ることができます。

世界遺産登録

コロンビアは1983年5月24日に世界遺産条約を締約し、カルタヘナは早期に推薦された候補でした。そして、1984年10月にパリで開催された第8回世界遺産委員会において、正式に世界遺産リストへの登録が決定しました。

この世界遺産は、以下の二つの基準に基づいて登録されています。

(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
カルタヘナの要塞群は、16世紀から18世紀にかけての軍事建造物として卓越した例であり、新世界（アメリカ大陸）において最大規模かつ最高の状態を保っているものの一つであると評価されました。

(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの。
カルタヘナは、キューバのハバナやプエルト・リコのサン・フアンと同様に、西インド諸島を結ぶ主要な交易路の重要な拠点でした。この資産は、大航海時代における地理上の発見と、それに伴う広大な海上交易ネットワークという普遍的な主題と深く関連していると認められました。

なお、カルタヘナの繁栄が、先住民からの財宝の略奪や奴隷貿易といった歴史的な負の側面の上に成り立っていたことから、一部の文献ではこの地を「負の世界遺産」として位置づける場合もあります。

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