カルナーロ＝イタリア執政府

カルナーロ＝イタリア執政府（イタリア語: Reggenza Italiana del Carnaro）は、第一次世界大戦後の1920年、ガブリエーレ・ダンヌンツィオとその支持者たちが、現在のクロアチア領リエカにあたるフィウーメを占拠して樹立した国家です。カルナーロとは、フィウーメが面するクヴァルネル湾のイタリア語名に由来します。

背景

当時オーストリア＝ハンガリー帝国領であったフィウーメには、多数のイタリア系住民が居住していました。イタリア王国は、この地を「未回収のイタリア」の一部とみなし、第一次世界大戦への参戦理由の一つとしていました。1918年、オーストリア＝ハンガリー帝国が連合国と休戦すると、フィウーメはフランス軍とイタリア軍によって占領されます。

1919年1月、パリ講和会議が始まりましたが、イタリアの要求する「未回収のイタリア」の獲得はほとんど実現せず、フィウーメはセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国（後のユーゴスラビア王国）への編入が決定されます。これに対し、イタリア国内では不満が高まり、フィウーメを占領していたフランス軍とイタリア軍の間で衝突が発生します。

連合国調査委員会は、駐留イタリア軍の大幅な削減を指示しますが、退去するイタリア兵士の間で、愛国的な詩人であり、「フィウーメか、死か！（O Fiume o morte!）」と叫び、「骨抜きにされた勝利（Vittoria Mutilata）」を批判するダンヌンツィオへの期待が高まります。

ロンキ進軍とフィウーメ占拠

1919年9月11日、ダンヌンツィオはロンキ・デイ・レジョナーリに集まった義勇兵とともに、フィウーメに向けて進軍を開始します。翌12日、義勇兵は2600人に膨れ上がり、フィウーメに入城し、連合国軍を追い出しました。ダンヌンツィオは「司令官（Comandante）」としてフィウーメの独裁統治を開始します。

イタリア王国政府とフランチェスコ・サヴェリオ・ニッティ首相は、この占拠を認めず、海上と陸上を封鎖してフィウーメの経済封鎖を試みる一方、ダンヌンツィオとの和平交渉も行っていました。しかし、連合国の手前、ダンヌンツィオの要求するフィウーメのイタリアによる併合には踏み切れず、両者の交渉は完全に膠着状態となります。

連合国はアメリカ主導で調停案を作成し、20万人のユーゴスラビア人と4万人のイタリア人が含まれる緩衝国家としての「フィウーメ自由国家」の樹立を提案します。イタリア王国政府は、ロンドン条約の境界線に基づく自由フィウーメ国家の成立を認めるものの、イタリア人の権利とフィウーメの自治権を強化する反論を提示しますが、セルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国がこの合意案を拒否したため、事態は暗礁に乗り上げます。

一方フィウーメでは、イタリア政府の和解案の是非を問う住民投票が実施され、圧倒的多数で採択されます。しかし、ダンヌンツィオはこの和解案を拒絶し、独裁色を強める一方で新たな計画を模索します。

カルナーロ憲章

1920年1月11日、ダンヌンツィオは高名なサンディカリストで、イタリア下院議員のアルチェステ・デ・アンブリスをフィウーメ司令部の内閣首班に任命し、フィウーメの統治形態を一新することとしました。デ・アンブリスはベニート・ムッソリーニと親交があり、ムッソリーニがダンヌンツィオとデ・アンブリスの関係を取り持ったとされます。

デ・アンブリスはフィウーメの憲法策定に着手し、3月18日にダンヌンツィオに憲法草案を提出します。デ・アンブリスはフィウーメのイタリア併合は現状では不可能であると考え、暫定的にフィウーメを共和国として成立させるという方策をとりました。ダンヌンツィオは憲法草案を部分的に修正し、8月31日に劇場で「カルナーロ憲章」を発表しました。

デ・アンブリスの草案では国名は「カルナーロ共和国（Repubblica di Carnaro）」でしたが、ダンヌンツィオが決めた国名は「カルナーロ＝イタリア執政府（Reggenza Italiana del Carnaro）」であり、あくまでイタリア王国の下に属する存在であるという意図が込められていました。憲章には、サンディカリストとしてのデ・アンブリスの思想が強く反映されていますが、ダンヌンツィオの哲学的・唯美的な主張も盛り込まれています。

終焉

1920年11月12日、イタリア王国政府はセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国とラパッロ条約を締結し、フィウーメを自由都市化する約束を取り付けます。ジョヴァンニ・ジョリッティ首相はダンヌンツィオらの即時退去を要求しますが、執政府はこれに応じませんでした。12月24日から5日間、イタリア王国海軍の軍艦がフィウーメへの砲撃を開始し、25名の死者を出しました（血のクリスマス）。12月30日、イタリア軍はフィウーメを占拠し、ダンヌンツィオは降伏文書に署名し、1921年1月18日にフィウーメを去りました。これにより自由都市フィウーメが成立します。

1924年 1月27日のローマ条約締結により、2月22日にフィウーメはイタリア王国に併合されることとなります。

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