カルメンという名の女

カルメンという名の女：ゴダールの異色カルメン映画

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1983年製作の映画『カルメンという名の女』（仏題：Prénom Carmen）は、プロスペル・メリメの同名小説を原作とした、しかしながら従来のカルメン映画とは一線を画す、非常に独創的な作品です。ベネチア国際映画祭で金獅子賞と技術賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

作品の背景と特徴

1983年、オペラ『カルメン』の著作権が切れ、多くのカルメンを題材とした作品が制作されました。ゴダール監督もこの機を捉え、本作を制作したのですが、興味深いのは、ビゼーの音楽ではなく、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を多用している点です。この大胆な選択が、本作を他のカルメン映画とは一線を画す、極めて異色の作品にしています。

脚本は、ゴダール監督のパートナーであるアンヌ＝マリー・ミエヴィルが単独で執筆しました。これは彼女にとって初の単独脚本作品となり、翌年には短編映画『マリアの本』で監督デビューも果たしています。プロデューサーのアラン・サルドは、ゴダール監督を商業映画の世界に復帰させ、数々の作品を共同制作しています。

撮影監督は、ゴダール監督の初期作品で撮影を務めたラウール・クタールが担当しています。本作は、彼の最後の作品となりました。カルメン役には当初イザベル・アジャーニが予定されていましたが、撮影期間2週間で降板。代役として抜擢されたマルーシュカ・デートメルスは、本作でスターダムにのし上がりました。ゴダール監督が新たな才能を見出す手腕は、本作でも遺憾なく発揮されたと言えるでしょう。

原題の『Prénom Carmen』は「名まえ カルメン」という意味で、主人公は「Carmen X」と表記されます。これは、黒人指導者マルコムXが姓を捨て「X」を名乗ったことに倣っており、旧世界のカルメンからの解放を象徴していると言えるでしょう。

映画の冒頭では、ゴダールの友人である俳優・監督のジャン＝ピエール・モッキーが精神病院の患者役で登場し、「Y a-t-il un Français dans la salle？（フランス人の観客はいるか？）」と叫ぶシーンがあります。これは、モッキー監督が1982年に監督した同名映画へのオマージュとも言えます。

ストーリー

美しいカルメンXは、映画制作資金を得るため、伯父（ゴダール監督自身を演じる）に依頼します。彼女の企てには、彼女に恋焦がれる若者も巻き込まれていきます。詳細な筋書きは、カルメンXと伯父、そして周りの人々との複雑な関係性を通して、ゴダールの独特な視点を反映した、一筋縄ではいかない展開となっています。

作品データと評価

作品はカラー作品で、上映時間は約85分です。評価サイトRotten Tomatoesでは9件のレビューで支持率89％、平均点7.80と高い評価を得ています。

国内DVD販売状況

日本では、東北新社から2003年にDVDが発売されましたが、現在は廃盤となっています。初期のDVDは、画面比率や再生速度に問題があり、現在はハピネット・ピクチャーズから、より適切な仕様で再発売されています。

まとめ

『カルメンという名の女』は、ゴダール監督の独創性と実験的な姿勢が凝縮された、非常に興味深い作品です。従来のカルメン映画とは全く異なるアプローチで、音楽、脚本、演出、そしてキャスティングに至るまで、ゴダール監督の個性あふれる作品となっています。DVDの入手には注意が必要ですが、ゴダール作品に触れてみたい方、そして従来のカルメン像とは異なる作品を探している方には、是非おすすめしたい作品です。 また、ゴダール自身の映画史における位置づけ、そしてその後の映画制作への影響にも注目してみる価値があるでしょう。この作品は、ゴダール監督のキャリアにおいて重要な一作であり、彼の多様で実験的な映画制作へのアプローチを理解する上で欠かせない作品となっています。様々な解釈が可能な、奥深い作品です。

もう一度検索