カレシオス

カレシオス（古希: Καλήσιος, Kalesios）は、古代ギリシアの伝説、特にホメロスによって編纂された壮大な叙事詩『イリアス』の中にその名を見出すことができる人物である。

彼はアクシュロスという名の人物に仕えており、主君に対する忠誠心厚い従者であったと推察される。彼の主要な役割は、トロイア戦争という未曾有の大規模な紛争において、アクシュロスが駆る戦車の御者を務めることであった。当時の戦車は、戦場における機動力と攻撃力の要となる重要な兵器であり、それを操る御者の技量は、戦士自身の戦闘能力と同じくらい、あるいはそれ以上に戦局を左右する要素であった。御者は、荒れた戦場を巧みに駆け抜け、敵の攻撃を回避しつつ、主君が最大限の力を発揮できる位置へと迅速に移動させなければならない。また、馬を制御しながら主君の安全を確保し、時には自らも身を守る必要があった。カレシオスもまた、熟練した御者としてアクシュロスを支えていたことであろう。

トロイア戦争が激しさを増す中、カレシオスとアクシュロスは、アカイア軍の中でも抜きん出た武勇を誇る英雄、テューデウスの子ディオメーデースと戦場で相対することとなる。ディオメーデースは、アテーナー神の加護を受けているとも言われ、その力は神々に匹敵すると称されるほどであった。彼は数々の敵を打ち破り、トロイア軍にとって最も恐るべき存在の一人であった。

無情な運命は、カレシオスとアクシュロスをこの強大な英雄との避けられない対決へと導いた。激闘の末、ディオメーデースの手にかかり、主であるアクシュロスは斃された。そして、彼に仕え、戦車を共にしたカレシオスもまた、同じくディオメーデースによって討ち取られたのである。主従は戦車の上で、ほとんど同時にその命を散らした。

ホメロスは『イリアス』において、彼らの死について簡潔ながらも鮮烈な筆致で描いている。彼らの最期は、トロイア戦争という巨大な悲劇の中において、多くの戦士たちが個別の運命を辿ったこと、そして戦場の非情さを物語る一節となっている。忠実な御者と主君が、共に同じ敵によって討たれるという結末は、彼らの間の絆、あるいは戦車戦における主従一体の戦い方を象徴しているとも解釈できる。彼らの名は、叙事詩の一部として永く記憶されることとなった。

参考文献
ホメロス『イリアス（上）』松平千秋訳、岩波文庫、1992年

もう一度検索