カレル・タイゲ

カレル・タイゲ：チェコ・モダニズムの旗手

カレル・タイゲ（1900年～1951年）は、20世紀前半のチェコにおいて、モダニズム運動を牽引した重要な芸術家、作家、評論家です。建築、美術、文学、思想など、多様な分野にわたる活動は、当時のチェコのみならず、ヨーロッパの前衛芸術に多大な影響を与えました。本稿では、彼の生涯と業績について詳細に見ていきます。

プラハにおけるモダニズムの導入

プラハ生まれのタイゲは、旺盛な活動力で同地のモダニズム芸術の導入に貢献しました。1920年代、彼は芸術運動「デヴィエトスィル (Devětsil)」の中心メンバーとして活躍し、同運動の機関誌『ReD (Revue Devětsilu)』の編集とグラフィックデザインを担当しました。デヴィエトスィルは、ル・コルビュジエ、マン・レイ、パウル・クレーといった巨匠たちとの交流を通して、プラハで数々の展覧会や講演会を開催し、モダニズムを積極的に発信しました。

シュルレアリスムと建築論

タイゲは、建築家ではありませんでしたが、鋭い洞察力を持つ建築評論家として知られており、CIAM（国際現代建築会議）にも積極的に参加しました。バウハウスの代表者であるハンネス・マイヤーとも親交があり、1929年から1930年にはデッサウのバウハウスで講演を行うなど、国際的なネットワークを構築していました。タイゲとマイヤーは、マルクス主義の原理に基づいた科学的で機能主義的な建築へのアプローチを共有していました。

タイゲは、1929年に発表されたル・コルビュジエのムンダネウム・プロジェクトを批判したことで知られています。合理的な機能主義から離れたと判断し、その姿勢を批判したのです。この批判は、彼が機能主義を単純に支持するのではなく、常に批判的な視点を持ってモダニズムを捉えていたことを示しています。

また、タイゲはチェコスロヴァキアにおけるシュルレアリスム・グループの中心人物としても重要な役割を果たし、アンドレ・ブレトンらとも交流を深めました。シュルレアリスムの詩的・夢幻的な側面と、モダニズムの合理性・機能性という一見対立する要素を、独自の視点で統合しようとした点に、彼の特異性を見出すことができます。1932年には建築に関する代表的著作である『最少住宅 (Minimum Dwelling)』を発表しています。

後年の活動と評価

第二次世界大戦後、タイゲは共産党政府の弾圧を受け、活動が制限されました。1951年、プラハで心臓発作により逝去しました。しかし、彼の著作はその後も高く評価され、モダニズム建築史やシュルレアリスム研究において重要な位置を占めています。タイゲの多様な活動と、その思想的背景を探ることで、20世紀前半のヨーロッパにおける前衛芸術の複雑な様相を理解することができます。

主要著作

タイゲの主要な著作には、『建築と詩』(1927)、『笑う世界』(1928)、『香りを放つ世界』(1930)、『潮流に抗うシュルレアリスム』(1938)、『芸術の市場』(1964)などがあります。これらの著作を通して、彼の多様な関心と、鋭い批評精神を垣間見ることができます。

参考文献

阿部賢一「カレル・タイゲと雑誌『デヴィエトスィル』」『れにくさ : 現代文芸論研究室論集』第6巻、現代文芸論研究室、2016年
阿部賢一『カレル・タイゲ : ポエジーの探求者』水声社〈シュルレアリスムの25時〉、2017年
Karel Teige. L'Enfant Terrible of the Czech Modernist Avant-Garde, ed. by Eric Dluhosch and Rostislav Svácha, MIT Press, 1999
その他多数の学術論文、書籍等

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