カレル・レイネル

カレル・レイネル

カレル・レイネル（Karel Reiner, 1910年6月27日 - 1979年10月17日）は、20世紀のチェコを代表する作曲家の一人です。ユダヤ系であったことからナチス・ドイツによる苛烈な迫害を受け、さらに第二次世界大戦後はチェコスロバキアの社会主義体制下でその音楽性が「形式主義」として批判されるなど、二重の苦難に見舞われた激動の生涯を送りました。しかし、そうした困難な状況下でも創作活動を続け、チェコ音楽史において重要な足跡を残しています。

生涯

レイネルは、1910年にボヘミア地方のジャテツ（Žatec）に生まれました。父はシナゴーグのハッザーン（先唱者）であり、幼い頃からユダヤの伝統と音楽に触れる環境で育ちました。プラハ・カレル大学で法律を専攻し、1934年には博士号を取得する傍ら、音楽への情熱を燃やし続けました。特に、1929年から1931年にかけては、著名な作曲家であるアロイス・ハーバとヨセフ・スクに師事し、作曲の専門的な研鑽を積みました。ハーバからは微分音音楽を含む前衛的な手法を学び、スクからはチェコの音楽的伝統の影響を受けたものと推測されます。

大学卒業後、レイネルはピアニストとして活動を開始し、1938年までエミル・フランチシェク・ブリアンが率いる劇場で活躍しました。この劇場は実験的な演劇や音楽を上演することで知られており、レイネルも時には師ハーバが発明した四分音ピアノを用いた作曲や演奏を行うなど、革新的な音楽表現に積極的に取り組みました。

しかし、第二次世界大戦が勃発し、チェコスロバキアがナチス・ドイツの占領下に入ると、ユダヤ系であったレイネルは迫害の対象となります。1943年にはテレージエンシュタット強制収容所に収監されました。この収容所は多くのユダヤ系芸術家や知識人が集められた場所であり、過酷な環境下でありながらも、収容者たちによる文化・芸術活動がある程度許容されていました。レイネルもここで音楽活動に深く関わり、特に収容所内で上演された児童オペラ『エステル』の付随音楽を手がけたことは特筆されます。こうした創作活動は、囚人たちの精神的な支えとなっただけでなく、後世に収容所内の文化活動の貴重な記録として残されることとなりました。

1944年、レイネルはテレージエンシュタットからアウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所へ移送され、さらにランツベルク、カウフェリングといった他の収容所を経て、ナチスの敗走に伴う「死の行進」を経験しました。想像を絶する苦難の連続でしたが、奇跡的に終戦まで生き延びることができ、故郷プラハへ帰還を果たしました。戦後はフリーランスの作曲家として再び音楽活動を開始し、新たな時代に向けて創作意欲を燃やしました。

しかし、1948年にチェコスロバキアで共産党が政権を掌握すると、新たな苦難が訪れます。レイネルの前衛的な音楽スタイルは、当時の社会主義リアリズムが主流の芸術観から「形式主義」として批判される標的となりました。体制からの圧力を受けながらも、彼は1948年にチェコスロバキア共産党に入党し、チェコ音楽基金の会長などを歴任するなど、体制内で音楽活動を続ける道を選びます。これは、作曲家として活動を継続するための苦渋の選択であったと考えられます。しかし、1968年の「プラハの春」とその後のソ連軍による介入（チェコ事件）を経て、政治状況が再び硬化する中で、彼は1969年に共産党を離党しました。晩年も作曲活動は続けられ、1979年にプラハでその生涯を閉じました。

音楽性

レイネルの作曲活動は1929年から1979年までの約50年間に及び、その音楽は彼が生きた時代のチェコの政治的、社会的な状況を色濃く反映しています。初期の作品は、師であるアロイス・ハーバやヨセフ・スク、そして同時代のエルヴィン・シュルホフらの影響を受けた前衛的なスタイルを特徴としていました。ブリアン劇場での活動からもわかるように、実験的な音楽表現に意欲的でした。

しかし、1948年の共産党政権成立後は、「形式主義」批判を受けて音楽スタイルの変更を余儀なくされました。前衛的な試みは抑圧され、より保守的で伝統的な手法を取り入れた作品の作曲が増えました。これは、彼自身の芸術的な探求とは異なる方向性であり、体制への適応を迫られた結果でした。

1960年代に入り、東欧の政治体制が一時的に緩和されると、レイネルの音楽にも再び変化が現れます。統制が緩やかになったことで、彼は自身の芸術的な探求を再開し、初期の前衛性とは異なる形ではありますが、より自由で豊かな表現を取り戻した作品を生み出すことができるようになりました。

彼の作品は、管弦楽曲、室内楽曲、器楽曲、カンタータ、オペラ、歌曲、合唱曲、映画音楽、演劇のための付随音楽など、あらゆる分野に及びます。非常に多才な作曲家であり、初期のキャリアにおいては、ジャズやチェコの民族音楽から影響を受けたポピュラーソングも作曲するなど、幅広い音楽性を兼ね備えていました。

主な作品

ピアノのための5つのジャズ練習曲（5 Jazz Studies for Piano, 1930年）
大管弦楽のための組曲（Suite for Large Orchestra, 1931年）
管打楽器のための協奏的組曲（Concertante Suite for Winds and Percussion, 1947年）
交響曲第1番（Symphony No. 1, 1959年）
大管弦楽のための交響的序曲（Symphonic Overture for Large Orchestra, 1963年）
フルート、バスクラリネットと打楽器のためのトリオ（Trio for Flute, Bass Clarinet and Percussion, 1964年）
バスクラリネット協奏曲（Concerto for Bass Clarinet, 1965年）
大管弦楽のための協奏的組曲（Concertante Suite for Large Orchestra, 1967年）
ファゴットと管打楽器のための協奏曲（Concerto for Bassoon and Winds and Percussion, 1969年）
交響的三章（Three Symphonic Movements, 1978年）

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