テレージエンシュタット

テレージエンシュタット：ナチスによるユダヤ人 ゲットーとゲシュタポ 刑務所

チェコ北部のテレージエンシュタット（テレジーン）は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによってユダヤ人ゲットーとゲシュタポ刑務所として使用された場所です。エーガー川を挟んで「大要塞」と「小要塞」と呼ばれる二つの地区があり、前者がゲットー、後者がゲシュタポ刑務所として機能していました。

「大要塞」：ユダヤ人 ゲットー

1941年11月24日から1945年4月20日までの間に、14万人以上のユダヤ人がこのゲットーに送られました。劣悪な環境と過密状態により、3万3000人以上がここで命を落とし、さらに8万8000人以上が他の強制収容所へ移送されました。そのため、テレージエンシュタット・ゲットーは、多くのユダヤ人が通過する中継地点としての性格が強かったと言えるでしょう。

歴史と設立

1941年10月、ラインハルト・ハイドリヒ親衛隊大将は、ベーメン・メーレン保護領を「ユダヤ人が存在しない地」にすることを宣言しました。その過程で、プラハやブルノのユダヤ人がウッチ・ゲットーへ追放されましたが、ウッチ側の受け入れ拒否を受け、テレージエンシュタットが新たな収容地として選ばれました。元々テレージエンシュタットに住んでいたチェコ人は強制的に移住させられ、その後にユダヤ人が送られてきました。1942年2月、テレージエンシュタット・ゲットーが正式に設置されました。

収容者の種類

ゲットーには、主に二種類のユダヤ人が送られました。一つはドイツから送られた「特権的ドイツ系ユダヤ人」で、ユダヤ人組織の役員、名士、第一次世界大戦従軍者、非ユダヤ人との結婚者、高齢者などが含まれていました。彼らは、ゲットーで比較的「安住」を許されたと信じさせられていましたが、実際には劣悪な環境にさらされ、多くの高齢者が死亡しました。特に1942年の死亡率は高く、移送された者の約半数が命を落としたとされています。彼らは当初他のユダヤ人とは異なり、原則として他の強制収容所への移送を免れていましたが、戦争後期にはそれも無効となり、アウシュヴィッツへ送られました。ドイツから送られたユダヤ人の総数は約5万7800人でした。

もう一つは保護領在住のユダヤ人で、最終的に約7万3600人が収容されました。彼らはアインザッツグルッペンの処刑場や絶滅収容所への移送を待つ中継地点として利用されました。その他、オランダ、スロバキア、ハンガリー、デンマークなどからもユダヤ人が送られてきました。移送先は当初複数ありましたが、1942年10月以降はアウシュヴィッツに一本化されました。

テレージエンシュタットの公開と偽装

1944年6月23日、デンマーク赤十字社と国際赤十字社の査察団がテレージエンシュタットを視察しました。ナチスは事前に大規模な偽装工作を行い、ゲットーを「ユダヤ人入植地」として美化しました。バラックの新築、家の塗り直し、庭園の整備、銀行や喫茶店、コンサートホール、遊び場の設置などが行われました。また、赤十字の到着に合わせて、サッカーの試合や子供たちのオペラが開催され、実態を隠蔽しました。さらに、記録映画の撮影も行われましたが、未完に終わっています。

末路

1944年9月から10月にかけて、残りのユダヤ人がアウシュヴィッツへ送られました。その後、1945年4月に再び多くのユダヤ人が送られてきましたが、5月1日に赤十字に施設が委ねられ、5月8日にソ連軍が解放しました。解放時、約1万7000人のユダヤ人が残っていました。戦後、テレージエンシュタットは一時的に収容所として使用されました。

ゲットーの運営

ゲットーの運営は、アドルフ・アイヒマン親衛隊中佐にほぼ一任されていました。司令官は全てオーストリア出身のアイヒマンの部下でしたが、親衛隊の規模は小さく、チェコ人地方警察が警備にあたっていました。ユダヤ人長老評議会が設置され、ユダヤ人の「自治」を装っていました。

「小要塞」：ゲシュタポ 刑務所

エーガー川左側の「小要塞」は、1940年からゲシュタポ刑務所として使用されていました。ゲットーとは完全に独立した施設で、約3万2000人が収監され、多くが強制収容所へ送られました。約2600人がここで死亡し、多数の子供が収容されていました。アントン・マロートという悪名高い看守は、戦後長年逃亡した後、有罪判決を受けました。この刑務所には戦争捕虜も収容されており、オーストラリアやニュージーランド政府は長年その事実を隠蔽していました。

参考文献

ハンナ・アーレント『イェルサレムのアイヒマン』
マーチン・ギルバート『ホロコースト歴史地図』
ラウル・ヒルバーグ『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』
ヴォルフガング・ベンツ『ホロコーストを学びたい人のために』
ウォルター・ラカー『ホロコースト大事典』
増田幸弘『黒いチェコ』

もう一度検索