カレー包囲戦 (1346年-1347年)

カレー包囲戦：百年戦争における戦略的要衝の攻防

カレー包囲戦は、1346年9月4日から1347年8月3日にかけて、イングランド王エドワード3世がフランスの港湾都市カレーを包囲し、最終的に陥落させた攻城戦です。この戦いは、クレシーの戦いの直後に行われ、百年戦争における重要な転換点となりました。カレーは、その後の百年戦争を通じてイングランドの重要な拠点となり、1558年までイングランド領として維持されました。

背景

クレシーの戦いで勝利を収めたイングランド軍でしたが、遠征を継続するための十分な戦力と物資を欠いていました。また、イングランド艦隊は既に帰国しており、イングランド軍は大陸に滞在するための拠点を確保する必要に迫られていました。そのような状況下で、カレーは戦略的に理想的な場所でした。この都市は、二重の城壁と堀によって守られており、さらに北西部の城塞は独自の防御設備を備えていました。また、イングランドから最短距離に位置し、イギリス海峡に面しているため、占領後は海上からの補給が可能でした。しかし、今後の戦略的拠点として使用するためには、この堅固な都市を可能な限り無傷で占領する必要がありました。

包囲戦の展開

1346年9月、イングランド軍はカレーの包囲を開始しました。包囲軍はイングランドとフランドルからの補給を受けており、フランス王フィリップ6世は、その補給路を遮断しようとしましたが、失敗に終わりました。一方、包囲軍も当初は、フランスに協力するジェノヴァ船によるカレーへの補給を完全に阻止することはできず、約2ヶ月間進展が見られませんでした。11月になると、大砲やカタパルト、長梯子などの攻城兵器が供給されましたが、都市を囲む湿地帯がそれらの設置を困難にし、有効に利用することができませんでした。冬の到来とともに、イングランド軍内部の不満が高まりましたが、エドワード3世は強い指導力を発揮し、包囲を継続させました。彼は、カレー周辺に仮設の集落を建設し、商人や職人を集め、市場や店も用意しました。これにより、長期的な包囲に備え、食糧不足によってカレーを開城させる作戦に切り替えました。フランスによる海上からのカレーへの補給は一度成功したものの、その後はイングランド海軍によって阻止され、食糧や補給品の供給は途絶えました。春になると、イングランド側には多くの補給品、船、そして兵士が到着し、戦力はクレシーの戦いの時以上に増強され、海上封鎖もより完璧なものとなりました。1347年6月になると、カレーへの食糧や水の供給はほぼ途絶え、7月には、ガレー船10隻を含むフランスの補給船団がイングランド艦隊によって追い払われました。食糧不足を緩和するため、カレーの住民は500人の子供と老人を都市から追い出しましたが、イングランド軍は彼らの入城を拒否したため、彼らは城壁の外で飢え死にすることになりました（ただし、フロワサールの年代記では、エドワード3世は彼らに食事と金を与え、通行を許可したとされています）。フランスは船やボートを用いてカレーへの補給を試みましたが、包囲軍への直接的な攻撃は行いませんでした。7月、フィリップ6世は軍を集めてカレーの近くに陣を敷きましたが、兵士たちの士気は低く、攻撃を断念し、7月31日に撤退しました。

包囲戦の結果とその後

1347年8月1日、救援の望みを失い、食糧も尽きたカレーの守備隊と市民は降伏を提案しました。エドワード3世は、大部分の市民を市外に追放し、代わりにイングランドから商人や職人を呼び寄せ居住させました。また、市内には、イングランドからの補給がなくても維持できるだけの十分な物資が備蓄され、羊毛を蓄え、フランドルに安定して羊毛を供給し資金を得られる体制が構築されました。その後、周辺地域を獲得すると多くの砦を築き、カレーの防御はさらに強化されました。これにより、イングランド軍はカレーを拠点として、いつでも出撃や撤退が可能となりました。フランスはその後、何度かカレーの奪還を試みましたが、百年戦争中は成功せず、1558年までイングランドが占領を続けました。

カレーの市民の物語

フランス側では、カレー開城の際に6人の市民がエドワード3世の前に出頭し、市民を救ったという伝説的な話が広く知られています。この逸話は、オーギュスト・ロダンによって彫像「カレーの市民」として表現され、現在もカレー市内に設置されています。しかし、イングランド側では、騎士道を重んじたエドワード3世が市民全員を処刑するつもりだったというのはありえない話だと否定的な見解を示しています。

伝説によると、カレーが飢餓により開城を申し出た際、エドワード3世は都市を徹底的に抵抗させたことへの報復として、全市民を処刑するか、あるいは身代金を取るかという無条件降伏を要求しました。しかし、ウィリアム・マーニーらの助言により、主要な6人の市民が代表として、無帽、裸足で首に処刑用の縄をかけて出頭することを条件に、市民の命を助けることにしました。これを受けて、ユスターシュ・サンピエールを始めとする6人の市民が勇気を奮い、王の前に現れました。エドワード3世は彼らの処刑を命じましたが、王妃フィリッパの涙ながらの嘆願により、彼らの命は救われ、フィリッパは彼らを丁重にもてなしてカレーに帰しました。


参考文献:
T. F. Tout, The History of England From the Accession of Henry III. to the Death of Edward III. (1216-1377),Project Gutenberg
Guizot, Franc,ois Pierre Guillaume,A Popular History of France from the Earliest Times, Volume 2, Project Gutenberg

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