カワサキ・350A7アベンジャー

350A7 アベンジャー：カワサキが誇る350ccロードスポーツの傑作

1967年から1971年にかけて、川崎航空機工業（現・川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー）が製造販売した350A7アベンジャーは、同社の技術力の高さを示す350ccクラスのロードスポーツモデルです。アメリカでは「アベンジャー」の愛称で親しまれていました。本車は、カワサキが250ccクラスで成功を収めた250A1サムライを礎に開発され、その設計思想を受け継ぎながらも、レース参戦で得られた技術革新が惜しみなく投入されています。

250A1からの進化：レースで磨かれた技術

350A7アベンジャーの心臓部であるエンジンは、250A1の250ccエンジンをベースにボアアップ。シリンダー内径を53.0mmから62.0mmに拡大することで排気量を350ccに増強しました。単なる排気量アップにとどまらず、レース車両であるA1Rで実証されたクランクシャフト強制潤滑方式（インジェクトルーブ）を採用。これにより、エンジンの信頼性と耐久性が向上しています。オイルラインの増設を伴う、改良されたクランクケースも採用されています。ショートストローク化されたエンジンは、圧縮比7.0:1、最高出力40.5ps/7,500rpm、最大トルク4.0kgf・m/7,000rpmという、当時としては優れた性能を発揮。0-400m加速は13.6秒と、排気量が大きい650ccクラスのバイクと同等の性能を実現しました。

上質感を漂わせるスタイリング

フレームは250A1と共通ですが、350ccモデルにふさわしい高級感を演出するため、細部の作り込みに工夫が凝らされています。燃料タンクにはクロームメッキが施され、シートには当時アメリカで流行していたタックロールステッチ加工が施されています。また、エキゾーストシステムはチャンバー容量を増やし、二重サイレンサー構造とすることで、力強いサウンドと優れた排気効率を実現しています。さらに、W1と同様の油圧式ステアリングダンパーや、魅力的なキャンディブルーカラーも設定されるなど、上位モデルを思わせる贅沢な装備が採用されました。これらの改良にも関わらず、重量増加はわずか4kgに抑えられ、パワーウェイトレシオは250A1の4.6kg/psから3.67kg/psへと大幅に向上しています。

輝かしい歴史：レースでの活躍とモデルバリエーション

350A7アベンジャーの開発背景には、カワサキのモータースポーツへの積極的な取り組みが深く関わっています。1965年にはKACスペシャルがロードレースに参戦開始。1966年には250A1が発売され、同年10月には全日本ロードレース選手権でA1Rが2位を獲得するなど、レースでの好成績が技術開発にフィードバックされました。350A7アベンジャーの発売後も、マン島TTレースでの上位入賞など、カワサキの技術力を世界に示す活躍を続けました。

その後も、A7S（分離式メーター、独立ヘッドライト、ステンレス製フェンダー装備）、A7SS（アップタイプマフラーのスクランブラーモデル）、そして、排気量を349ccまで拡大し最高出力53ps/9,500rpm、最高速度220km/hに達したレーシングモデルA7Rなど、様々なモデルバリエーションが展開されました。1971年にはカラーリング変更なども行われ、長く愛されるモデルとなりました。

250A1サムライとの共通点と相違点

350A7アベンジャーは、250A1サムライと基本設計を共有する兄弟車種です。しかし、単なる排気量アップではなく、レースで培われた技術を投入することで、より高性能かつ洗練されたモデルへと進化を遂げています。兄弟車種である250A1サムライとの比較検討は、カワサキの技術進化を理解する上で非常に興味深いものです。

まとめ

350A7アベンジャーは、カワサキの技術力とデザインセンスが凝縮された、まさに名車と言えるでしょう。レースで培われた技術と、洗練されたスタイリング、そして高い信頼性は、多くのライダーを魅了しました。カワサキの歴史を語る上で、欠かすことのできない重要なモデルの一つと言えるでしょう。

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