カンダウレス

リュディア王カンダウレス：美貌の王妃と王位簒奪の悲劇

紀元前8世紀、栄華を誇ったリュディア王国のヘラクレス朝最後の王、カンダウレス。彼の名は、歴史の表舞台に劇的な最期と共に刻まれています。歴史家ヘロドトスは、彼を「カンダウレス」と記していますが、これは宗教名であり、真名はサデュアッテス（リュディア語で「強き父」の意）であったとされています。時にはサデュアッテス1世とも呼ばれ、後のリディア王サデュアッテスと区別されます。ギリシア人からはミュルシロスと呼ばれていたという記録も残されています。

カンダウレスの父はメレス（またはミュルソス）で、彼はヘラクレスの子孫を自称していました。在位期間については紀元前733年～716年、紀元前728年～711年、紀元前680年頃没など諸説ありますが、いずれにしても彼の治世は長くは続かず、悲劇的な結末を迎えます。

カンダウレスの運命を決定づけたのは、彼の自慢話と、王妃ニュッシア（またはルド）の並外れた美貌でした。ヘロドトスによると、彼は近臣ギュゲスに、王妃の裸体を見せびらかしたのです。この行為が、王の命取りとなります。

王妃はギュゲスの前で自分の美貌をさらされたことに激しい怒りを覚え、彼に二つの選択肢を突きつけました。一つは自害すること、もう一つはカンダウレスを殺し、王位と自分自身を手に入れることでした。

ギュゲスは、王の命を奪う決断をします。一説には、ギュゲスは自ら所有する、姿を消す魔法の力を宿した指輪を用いて、カンダウレスを暗殺したと言われています。こうして、カンダウレスはメルムナデス朝の創始者ギュゲスによって殺害され、王位は簒奪されました。王妃もギュゲスの妻となりました。

カンダウレスの物語は、歴史の枠を超えて、多くの芸術作品にインスピレーションを与えました。フリードリヒ・ヘッベルの戯曲『ギューゲスと彼の指輪』、テオフィル・ゴーティエの小説『カンダウレス王』、アンドレ・ジッドの同名小説、アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーのオペラ『カンダウレス王』、マリウス・プティパのバレエ『カンダウレス王』など、様々な形でカンダウレスの悲劇は表現され、現代においても人々の心を捉え続けています。

カンダウレスの生涯は、王の傲慢さと、その傲慢さによって引き起こされた悲劇的な結末を示す、歴史における教訓的な物語と言えるでしょう。彼の物語は、権力の脆さ、そして人間の欲望の恐ろしさを改めて私たちに突きつけます。リュディア王国の歴史の中で、短いながらも強烈なインパクトを残したカンダウレス。彼の名は、歴史の暗闇の中に、永遠に刻み込まれることでしょう。彼の物語は、単なる歴史上の出来事としてではなく、人間の弱さと強さを同時に示す、普遍的なテーマとして、私たちに語りかけ続けています。現代においても、カンダウレス王の物語は、権力、欲望、そして運命という永遠のテーマを想起させ、芸術家や作家にインスピレーションを与え続けています。彼の物語が後世に与えた影響は、単に娯楽作品としてだけでなく、人間の深淵を覗く鏡として、これからも人々の心に響き続けることでしょう。

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