カンブレー包囲戦 (1677年)

1677年 3月20日から4月19日にかけて、仏蘭戦争中にフランス王国によって行われたカンブレー包囲戦は、戦略的に重要な都市カンブレーを巡る攻防戦でした。

背景

カンブレー司教領は神聖ローマ帝国の封土であり、フランス王国との国境近くに位置していました。1543年以降はスペインによって統治されていましたが、フランスは過去に何度もカンブレーを包囲しています。ルイ11世による1477年の包囲、アンリ3世とアンリ4世による1581年から1595年までの包囲などがありました。

フランスは、シュリー公爵やリシュリュー枢機卿の時代から、フランスの版図を拡大する政策を推進しており、アルトワ伯領やエノー伯領、ネーデルラント連邦共和国の州などを併合しようとしました。ルイ14世の時代には、カンブレーは1649年と1657年にもフランスによって包囲されています。

1667年、ルイ14世は王妃マリー・テレーズ・ドートリッシュの継承権を主張し、ネーデルラント継承戦争を開始。スペイン領ネーデルラントへの侵攻を開始し、シャルルロワ、トゥルネー、ドゥーエー、リールなどを次々と占領しました。1668年のアーヘンの和約で、スペインはこれらの都市をフランスに割譲しましたが、カンブレー周辺にはスペインの要塞が残存し、フランスにとって戦略的な弱点となっていました。

1672年に勃発した仏蘭戦争において、フランス軍はヨーロッパ最強の軍事力を持っていました。一方、スペイン領ネーデルラントの要塞守備兵力は少なく、傭兵や市民兵が主体でした。1676年初頭にはブシャンやコンデを占領し、ヴァランシエンヌも陥落させたフランス軍は、ルイ14世の命により、カンブレー攻略へと進軍しました。

カンブレーの状況

カンブレーは、スペイン王カルロス2世にとってフランスへの側面攻撃の拠点であり、フランスもその重要性を認識していました。カンブレーの守りは堅固で、南と西はスヘルデ川によって防御され、北東はカール5世によって築かれたカンブレー城によって守られていました。

しかし、カンブレーは孤立しており、外部からの支援は期待できませんでした。総督のペドロ・デ・サバラは高齢で、守備兵はスペイン人が中心でしたが、士気は高くありませんでした。カンブレー城は堅牢ではあるものの、接近戦には弱いという弱点がありました。フランス軍は事前にスパイを送り込み、カンブレー市民の士気やスペインへの忠誠心などを調査していました。

包囲

1677年3月22日、ルイ14世は自らカンブレーへ赴き包囲を指揮しました。フランス軍は4万人以上の兵力を投入し、カンブレーの守備兵4千人に対して圧倒的な優位に立ちました。ヴォーバンは包囲の指揮を執り、カンブレーの北側が脆弱であることを利用して、ノートル＝ダム門付近に塹壕を掘り始めました。この塹壕掘りには、7千人ものピカルディからの平民が動員され、迅速に進められました。

3月30日、フランス軍は砲撃を開始し、半月堡を攻撃しました。4月1日にも半月堡への攻撃を続け、2日にはセレス門とノートル＝ダム門の間にある半月堡を攻撃しました。5日、フランス軍が防御工事を突破すると、カンブレーの町は降伏しましたが、守備隊はカンブレー城に立て籠もりました。フランス軍は歩道に沿って塹壕を掘り進め、11日から12日にかけての夜には、フランス兵150人が戦死しました。ルイ14世は報復としてサント・シャルル稜堡を攻撃しましたが、カンブレー総督は降伏を拒否しました。

4月17日、フランス軍の指揮官が爆弾2枚で要塞を破壊できると宣言すると、カンブレー総督ペドロ・デ・サバラは降伏を決意しました。ルイ14世は、アウォアンでミサに参加している際に降伏の知らせを受けました。19日、降伏交渉が成立し、サバラはカンブレー城の鍵をルイ14世に手渡しました。29日間の包囲戦で、スペイン軍はフランス軍に1,200人の損害を与えましたが、2千人の兵士と共に名誉をもって退去しました。20日、ルイ14世はカンブレーに入城し、テ・デウムを命じました。その後、カンブレー城を視察しましたが、その防御の弱さに驚いたと言われています。

21日、ルイ14世はセゼン侯爵をカンブレー総督に任命し、エシェヴァンを新たに14人任命しました。その後、ルイ14世はカンブレーを離れ、ドゥーエーへ向かいました。

その後

カンブレーの陥落は、ルイ14世の栄光をさらに高める出来事となりました。アダム・フランス・ファン・デル・メーレンはカンブレーを題材とした版画や絵画を制作し、ニコラ・ボアロー＝デプレオーもカンブレーについての詩を詠みました。1678年8月10日のナイメーヘンの和約により、カンブレーは正式にフランスに編入されました。

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