カンブレー同盟戦争

カンブレー同盟戦争とは

カンブレー同盟戦争は、1508年から1516年にかけてイタリア半島で繰り広げられた、大規模な戦争です。この戦争は、フランス、教皇国、ヴェネツィア共和国が、イタリア半島における権益を巡って争ったもので、当時の西欧諸国のほぼ全てが巻き込まれました。イタリア戦争の中でも最大規模の戦争の一つとされています。

戦争の背景

第一次イタリア戦争後、教皇アレクサンデル6世はフランスの援助でロマーニャ地方を獲得し、教皇国の勢力を拡大していました。アレクサンデル6世の死後、後を継いだユリウス2世は、ロマーニャ地方をヴェネツィア共和国が支配している状況を快く思っていませんでした。ヴェネツィアはロマーニャ地方の都市の支配権と引き換えに、没落貴族たちから経済的援助を受けており、このことが教皇との対立を深めることになります。

1507年、ユリウス2世はヴェネツィアにロマーニャ地方の返還を再度要求しましたが、ヴェネツィア議会がこれを拒否。ユリウス2世は、新たに選出された神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世にヴェネツィア攻撃を働きかけます。しかし、皇帝軍はヴェネツィア軍に敗北し、この試みは失敗に終わります。

カンブレー同盟の結成

皇帝の失敗を受け、ユリウス2世はフランス王ルイ12世と同盟を結ぶことを決意します。1508年、ヴェネツィアがヴィチェンツァ司教の独自候補を擁立したことを機に、教皇は全カトリック諸国にヴェネツィア討伐を呼びかけ、フランス、神聖ローマ帝国、スペイン、教皇国が参加するカンブレー同盟が結成されました。同盟の条約では、ヴェネツィア領を加盟国間で分割することが定められました。

戦争の経過

1509年4月、フランス軍がヴェネツィアに侵攻を開始。ヴェネツィア軍はアニャデッロの戦いでフランス軍に大敗し、ヴェネツィアはイタリア北部の領土をほぼ全て失います。その後、パドヴァ市民が蜂起し、一時的にヴェネツィアが勢力を盛り返しますが、皇帝軍との戦いで再び劣勢に立たされます。

ヴェネツィアは教皇ユリウス2世に和平を打診しますが、教皇が要求した条件は非常に厳しいものでした。ヴェネツィアは領内の聖職者に対する司法権などを失い、ロマーニャ地方の諸都市を教皇に割譲することになりました。ヴェネツィアは和平を受諾しますが、裏では条約破棄を企てていました。

教皇とヴェネツィアの間で和平が成立したものの、フランス軍は再びヴェネツィアに侵攻を開始します。教皇はフランスの影響力が強まることを懸念し、ヴェネツィアにフランスに対抗する同盟を提案します。これにより、ヴェネツィアと教皇の間で同盟が成立しました。

神聖同盟の結成

ヴェネツィア-教皇同盟は、フランスとその同盟国への攻撃を開始しますが、教皇軍は各地で敗走を重ねます。劣勢を覆すため、ユリウス2世は神聖同盟を提唱し、スペイン、神聖ローマ帝国、イングランドが参加する対フランス同盟が結成されました。

1512年、フランス軍はラヴェンナの戦いで勝利を収めますが、総司令官であったガストン・ド・フォワが戦死したことで勢いを失います。その後、スイス傭兵がミラノを攻撃し、フランス軍はイタリア半島から撤退を余儀なくされました。

フランスの敗北後、旧フランス領の処遇をめぐり、神聖同盟参加国間で激しい対立が起こります。教皇とヴェネツィアは、ミラノ公国をマッシミリアーノ・スフォルツァに支配させるべきだと主張しますが、皇帝マクシミリアン1世は自らの一族をミラノ公に据えようと謀っていました。教皇はフェラーラ公国の教皇領への併合を要求しましたが、フェルナンド2世はこれに反対しました。また、マクシミリアン1世は、占領していたヴェネツィア領を帝国領であると主張して譲らず、ヴェネツィアと教皇の関係は再び悪化します。

フランス-ヴェネツィア同盟

ヴェネツィアは勢力挽回を狙い、フランス王ルイ12世と手を組むことを決意。1513年、北イタリアを分割する条約を締結しました。フランス軍はミラノへ進軍しますが、スイス傭兵との戦いに敗北し、フランス軍はアルプス以西へ撤退します。

一方、ヴェネツィア軍はスペイン軍に敗北し、ヴェネツィア本土へ撤退しました。神聖同盟は一連の勝利を戦争全体の勝利につなげることができず、ヘンリー8世が同盟から離脱しました。また、教皇ユリウス2世が死去し、後を継いだレオ10世は軍事に無関心であったため、教皇軍の動きは防衛的なものになりました。

1515年、ルイ12世が死去し、新たにフランソワ1世がフランス王に即位します。フランソワ1世はイタリア半島におけるフランス領の再興を目指し、マリニャーノの戦いでスイス傭兵に大勝し、ミラノを占領しました。

戦後

マリニャーノでの敗戦により、神聖同盟は戦意を失います。1516年、フランス王フランソワ1世と神聖ローマ皇帝カール5世との間で終戦条約が締結され、フランスのミラノに対する主権とスペインのナポリに対する主権が相互に認められました。

皇帝マクシミリアン1世もフランスとの終戦交渉に入り、フランス軍のミラノ占領を認めることになり、イタリア半島は1508年の戦争勃発前の状態に戻りました。しかし、この平和は長くは続かず、1519年にカール5世が神聖ローマ皇帝に選出されたことで、新たな戦争が勃発することになります。

まとめ

カンブレー同盟戦争は、イタリア半島を舞台に繰り広げられた複雑な戦争であり、各国の思惑が絡み合った結果、同盟関係が目まぐるしく変化しました。この戦争は、イタリア戦争における最大規模の戦争の一つであり、その後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。