カンボジア作戦

カンボジア作戦（1970年）

カンボジア作戦は、ベトナム戦争の進展に伴い、1970年にカンボジア東部で実施されたアメリカ軍と南ベトナム軍による一連の軍事作戦です。この作戦は、その後のカンボジア内戦へと繋がっていきます。

背景

1960年代、北ベトナム軍はカンボジア東部を、南ベトナムでの戦闘からの退避場所、休息・再編成の場として利用していました。カンボジア政府の形式的な中立性と軍事的な脆弱性から、この地域は北ベトナム軍にとって安全な拠点となっていました。また、シハヌーク・トレイルを通じて大量の武器や物資が運び込まれ、保管されていました。

1968年、クメール・ルージュがシハヌーク政権打倒のための反政府活動を開始。北ベトナムからの援助は限られていましたが、北ベトナム軍の支配地域に逃げ込むことができました。アメリカ政府はこれらの活動を察知していましたが、シハヌークを味方に引き入れることを期待し、カンボジア領内での軍事行動は控えていました。

作戦の目的

作戦の主な目的は、カンボジア東部国境地域に展開する北ベトナム軍とベトコン部隊の駆逐でした。アメリカがベトナム化政策と撤兵を進める中、国境を越えた脅威を排除することで南ベトナム政府を支援しようとしました。1970年のカンボジアクーデターで、親米派のロン・ノルが政権を掌握。これにより共産主義側の拠点を破壊する機会が生まれました。

作戦の経過

ロン・ノル政権下での一連の作戦で、南ベトナム軍はいくつかの町を占拠しましたが、ベトコンの指導者たちは脱出に成功しました。アメリカ軍と南ベトナム軍の合同作戦は、共産主義軍の駆逐には成功したとは言えず、南部中央局(COSVN)の捕獲にも失敗しました。しかし、カンボジアで大量の物資を鹵獲したことは成果として評価されました。

リチャード・ニクソン大統領は、B52戦略爆撃機によるカンボジア拠点区域の爆撃を当初は拒否していましたが、1969年のミニ・テト攻勢を機に秘密航空作戦を承認。メニュー作戦として、14ヶ月間に3,000回以上の出撃が行われました。

1970年3月、シハヌークが追放され、ロン・ノルが暫定元首に選出。シハヌークは北京に亡命政府を樹立し、北ベトナム、クメール・ルージュ、ベトコンと同盟を結びました。ロン・ノルは、カンボジア国内のベトナム人を人質として抑留するよう命じ、虐殺事件も発生しました。

北ベトナム軍はカンボジアのクメール国軍に対する攻勢を開始し、東部と北東部の大部分を掌握。首都プノンペンに迫る勢いを見せました。ニクソン大統領はこれに対応を迫られ、アメリカ軍と南ベトナム軍によるカンボジアへの侵攻作戦が開始されました。

作戦行動

主な作戦は以下の通りです。

「オウムのくちばし」地区への侵攻: 南ベトナム軍がスヴァイリエン州に侵攻。
「釣針」地区への侵攻: 米軍と南ベトナム軍がコンポンチャム州に突入。
ビン・タイ作戦: アメリカ軍と南ベトナム軍がカンボジア北東部の拠点エリア702を攻撃。
クーロン作戦: 南ベトナム軍がメコン川東岸を西および北西へ進軍し、ベトナム人避難民の保護を行いました。

アメリカ軍は、フリーダム・ディール作戦として、カンボジアにおける航空阻止行動を継続しました。また、米軍と南ベトナム軍は、部隊への兵站補給に苦労しましたが、空中補給を主体としてこれを乗り越えました。

作戦の結果と影響

北ベトナム軍は連合軍との接触を避け、西へ退却。カンボジアでの補給ルートを失った北ベトナム軍は、ラオス領内を通るルートを拡大しました。アメリカ国内では、カンボジア侵攻に対する抗議運動が激化。ケント州立大学での銃撃事件が発生し、社会的な混乱が広がりました。

ニクソン大統領は、この侵攻を「戦争全体の中で最も成功した軍事作戦」と評価しましたが、作戦の長期的な影響については様々な見解があります。カンボジアにおける北ベトナム軍の兵站システムは損害を受けましたが、クメール・ルージュの勢力拡大を招き、カンボジア内戦を激化させる一因となりました。

アメリカ軍と南ベトナム軍は大量の物資を鹵獲し、北ベトナム軍の補給を妨害しましたが、COSVNの捕獲には失敗しました。南ベトナム軍は一定の成果を上げましたが、指導力にはばらつきがありました。

この作戦は、アメリカのベトナム戦争からの撤退を遅らせ、カンボジアの政治情勢を不安定化させるなど、複雑な遺産を残しました。

もう一度検索