カーター・ファミリー

カーター・ファミリー：カントリー音楽の先駆者



カーター・ファミリーは、1920年代後半から1940年代にかけて活躍したアメリカのカントリー音楽グループです。その音楽は、後のブルーグラス、カントリー、ロカビリーなど、アメリカの白人ポピュラー音楽全般に多大な影響を与え、1960年代のフォークリバイバルにも重要な役割を果たしました。特にメイベル・カーターは、革新的なギター奏法で「ギターの母」と称され、多くのアメリカ人ギタリストの模範となっています。

活動の軌跡


カーター・ファミリーは、A.P.カーター（歌、ハーモニカ）、サラ・カーター（オートハープ、ギター、歌）、メイベル・カーター（ギター、歌）の3人で結成されました。3人ともバージニア州南西部出身で、ゴスペルのハーモニーとシェイプノートによる歌唱に親しんでいました。メイベルはA.P.カーターの弟の妻でした。

1927年7月31日、A.P.カーターはサラと妊娠中のメイベルを説得し、テネシー州ブリストルでのオーディションを受けるため旅に出ました。このオーディションで、レコーディングプロデューサーのラルフ・ピアは、カーター・ファミリーの才能を見出し、デビューのきっかけとなりました。

1927年秋に「Wandering Boy」と「Poor Orphan Child」が、1928年には「The Storms Are on the Ocean」と「Single Girl, Married Girl」がリリースされ、人気を博しました。1928年5月27日には、ニュージャージー州カムデンで多くの代表曲を録音しました。この時録音された「森かげの花 (Wildwood Flower)」は、カントリーとブルーグラスの歴史的な代表曲として、今もなお歌い継がれています。

A.P.カーターは新曲を求めて旅を続け、その過程でキングスポートの黒人ギタリスト、レズリー・"Esley"・リドルと出会い、彼からブルースギターの演奏スタイルを学びました。特にメイベルはこの出会いから大きな影響を受け、独自のギター奏法を確立しました。

1931年には、ナッシュビルでカントリーの大御所、ジミー・ロジャーズとも録音を行っています。1938年から1939年にかけては、テキサス州デルリオのボーダーラジオ局XERAで番組を持ち、その後も各地のラジオ局で放送を続けました。1942年にはノースカロライナ州シャーロットのWBTで番組を開始しましたが、1943年にサラがカリフォルニアへ移住したことで、バンドは解散しました。

メイベルは、後に娘たちと「マザー・メイベル & カーター・シスターズ」を結成し、活動を続けました。一方、A.P.カーターとサラは、1950年代に数曲の録音を行いましたが、詳細は不明です。

カーター・ファミリーの音楽性


カーター・ファミリーは、アメリカ南部の伝承曲や自作曲を、ゴスペルのハーモニーを取り入れた独特のスタイルで演奏しました。歌詞は宗教的・道徳的なものが多く、伝統的な歌唱法にハーモニーを加えることで、カントリー音楽の重要な特徴を作り上げました。

カーター・スタイル・フラットピッキング


メイベル・カーターは、ギターをリード楽器として用いる革新的な奏法を開発しました。コードストロークでリズムを刻みながら、低音弦でベース音やメロディを奏でる「カーター・スタイル・フラットピッキング」は、多くのギタリストに影響を与えました。この奏法は、後にドク・ワトソンやクラレンス・ホワイト、ノーマン・ブレイクなどによってさらに洗練され、フォーク系シンガーの伴奏にも広く用いられるようになりました。

カーター・ファミリー・ピッキングとチャーチリック・ピッキング


カーター・ファミリー・ピッキングは、チャーチリック・ピッキングと混同されることがありますが、両者には明確な違いがあります。チャーチリック・ピッキングはフラットピックを使用しますが、カーター・ファミリー・ピッキングは、サムピックまたは何もつけない親指で低音部を、人差し指で高音部を弾きます。カーター・ファミリー・ピッキングを正確に行うギタリストは現代では少なくなっていますが、日本ではなぎら健壱などがこの奏法を使いこなしています。

評価


カーター・ファミリーは、その音楽性と革新的なギター奏法で、カントリー音楽の歴史に大きな足跡を残しました。1960年代のフォークリバイバルでは、彼女たちの楽曲が数多く取り上げられ、ジョーン・バエズなどのアーティストによって再評価されました。

栄誉



カーター・ファミリーは、カントリー音楽の発展に貢献しただけでなく、アメリカの音楽文化全体に大きな影響を与えた、まさに「カントリー・ミュージックのファーストファミリー」と言えるでしょう。

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