カート・フラッド事件

カート・フラッド事件について

カート・フラッド事件（カート・フラッドじけん）は、1969年にメジャーリーグベースボール（MLB）において発生した重要な論争で、選手の権利と球団の契約制度に関する大きな転換点となりました。フラッドは当時セントルイス・カージナルスに所属していた外野手で、Philadelphia Philliesへのトレードを拒否したことから始まりました。これにより、契約の制約がシャーマン法に違反するか否かが争点となり、1972年には合衆国最高裁判所での判決が下されました。

事件の背景

フラッドのケースを理解するためには、まず選手たちが直面していた「保留制度」の影響を考えなければなりません。初期のナショナルリーグとアメリカンリーグにおいては、選手の自由な移籍が許されていました。しかしながら、チームオーナーたちは選手の年俸が高騰し、適正な競争が損なわれることを恐れ、選手が契約期間中に移籍することを禁止するカルテルを結成しました。これが「保留制度」の始まりです。

1915年以降、特別な判例により、野球にはシャーマン法（反トラスト法）が適用されない特例が生まれましたが、保留制度に対する挑戦が続いていました。1945年のダニー・ガーデラ事件や、ジョージ・トゥールソン事件などがその証拠です。選手たちは、球団との契約によって個人の選択権が制約される不公平な状況に対して法的手段で立ち向かおうとしていました。

フラッドのトレード拒否

1969年10月、フラッドはフィラデルフィア・フィリーズへのトレードを通知されましたが、当時のフィリーズは成績が振るわず、かつフィラデルフィアには依然として深刻な人種差別が残っていることから、フラッドはトレードを拒否しました。彼は自身の意志を無視してトレードされる商品ではないと考え、トレード自体が反トラスト法に違反していると主張しました。この決断は、彼の野球人生をかけた戦いの始まりでした。

フラッドはセントルイスの弁護士に助言を求め、選手会のマービン・ミラーと相談しました。ミラーは、訴訟の難しさを警告したものの、フラッドの意志を強く支持しました。選手会は彼のために法廷費用を負担することを決定し、名弁護士アーサー・ゴールドバーグが弁護に立ちました。

裁判の進行

フラッドは、保留条項を奴隷制度に例え、ニューヨーク地裁に訴訟を起こしました。その訴訟には、元選手たちが証人として出廷し、野球界の不公平を訴えました。しかし、地裁は既存の判例に従い、フラッドの訴えを却下しました。控訴審でもこの判断は支持されました。

1972年、最高裁判所がフラッド事件を受理し、審理が行われました。9人の判事のうち、特定の判事が審理から外れたものの、最終的に5対3でフラッドの敗訴が決まりました。過去の判例を覆すことはできず、フラッドの選手権利擁護の試みもここで水泡に帰しました。

結果と影響

フラッド事件は選手たちの権利向上のための重要な一歩となりました。選手たちの結束が強まる中、彼らは後にさらに多くの権利獲得のための交渉を進めていくことになります。保留制度はその後も問題とされ続け、最終的にはフリーエージェント制度の導入へとつながることとなります。この事件は、スポーツ界における選手の権利意識を高め、今後の選手契約の考え方に大きな影響を与えることになりました。

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