カーニヴァル・オブ・ライト

カーニヴァル・オブ・ライト：ビートルズの幻の楽曲

1967年、ビートルズは革新的なアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』制作の最中でした。その頃、彼らは並行して、これまでとは全く異なる実験的な音楽にも取り組んでいました。それが、未発表曲として知られる「カーニヴァル・オブ・ライト」です。

誕生の背景：サイケデリックな時代と電子音楽イベント

この曲は、1967年1月、ロンドンのラウンドハウス・シアターで開催された電子音楽イベント、『The Million Volt Light and Sound Rave』のために制作されました。このイベントは、当時隆盛を極めていたサイケデリック・ムーブメントを反映した、先鋭的な音楽と照明の融合を目的とした芸術祭でした。ポール・マッカートニーは、イベントの主催者から楽曲提供を依頼され、このイベントを念頭に置いて「カーニヴァル・オブ・ライト」を創作することにしたのです。

ビートルズは、既に『リボルバー』でテープ・ループや逆回転といった実験的な手法を取り入れており、音楽シーンに大きな衝撃を与えていました。音楽学者の中には、『リボルバー』を電子音楽の革新的な例と評する者もいます。「カーニヴァル・オブ・ライト」は、その流れをさらに推し進めた、いわば実験の集大成と言えるでしょう。

奔放なレコーディング：現代音楽の影響と即興演奏

「ペニー・レイン」のオーバーダビングを終えた直後、ビートルズは「カーニヴァル・オブ・ライト」のレコーディングに臨みました。ポール・マッカートニーは、メンバーに自由に演奏するよう指示したと言われています。歩き回りながら、身の回りのものを叩いたり、叫んだり、楽器を演奏したり…。意味のない音も歓迎された、極めて自由なセッションだったようです。

マッカートニー自身、ジョン・ケージやカールハインツ・シュトックハウゼンといった現代音楽の作曲家からの影響を公言しており、この楽曲にはそうした影響が色濃く反映されています。完成した楽曲には、歌詞はありませんが、マッカートニーとジョン・レノンの声が断片的に収録されており、ドラム、オルガン、ギター、ピアノ、さらにはスタジオでの会話の断片、叫び声、口笛、水でうがいをする音など、多様な音が重なり合っています。また、楽曲の途中で「フィクシング・ア・ホール」の一部が演奏されている箇所もあるなど、まさに混沌としたサウンドが特徴です。

イベントでの披露と酷評：予想を超えた演奏時間

「カーニヴァル・オブ・ライト」は、『The Million Volt Light and Sound Rave』で初披露されました。しかし、その反応は芳しくありませんでした。演奏時間は当初の予定を大幅に超え、「フィクシング・ア・ホール」の一部も含まれてしまい、ポール・マッカートニーは主催者に憤慨したと言われています。聴衆も、この実験的な楽曲に完全に失望したと評されています。イベント関係者からも、「めちゃくちゃで、内容に一貫性がない」「たいしたものではない」といった否定的な意見が多く寄せられました。

アルバム未収録とその後：賛否両論とリリースの行方

その後、「カーニヴァル・オブ・ライト」は、海賊盤にも収録されることなく、長らく世に出ることはありませんでした。1996年、ポール・マッカートニーは『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』への収録を提案しましたが、他のメンバーやオノ・ヨーコから拒否されました。「ゴミだ」と評されたという逸話も残っています。

しかし、ポール・マッカートニーは、この楽曲を未だに高く評価しており、いつか発表したいと考えているようです。2008年には、マスター・テープを所有していることを明かし、リリースの可能性を示唆しました。しかし、レノンの未亡人オノ・ヨーコ、ハリスンの未亡人オリヴィア・ハリスン、リンゴ・スターの同意が必要であり、実現には様々なハードルがあるようです。2016年には、未発表曲のリリース案が浮上したものの、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念盤にも収録されることはありませんでした。

ビートルズの歴史の中でも異彩を放つ「カーニヴァル・オブ・ライト」。この実験的な楽曲は、いつの日か日の目を見るのでしょうか。その動向から目が離せません。

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