カールスバート決議

カールスバート決議：自由主義とナショナリズム弾圧の足跡

1819年、ヨーロッパの中心地ドイツで、自由主義とナショナリズム運動を揺るがす出来事が起こりました。それが、カールスバート決議です。この決議は、ウィーン体制の中枢にいたオーストリアの宰相メッテルニヒの強力な主導のもと、ドイツ連邦を構成する主要10ヶ国によって採択されました。本稿では、カールスバート決議の背景、内容、そしてその後のドイツ社会に及ぼした影響について詳細に解説します。

沸騰する自由主義とナショナリズム：決議に至る背景

1815年のナポレオン戦争終結後、ドイツ各地では学生を中心に自由主義とナショナリズムを掲げる運動が活発化しました。特に、学生同盟であるブルシェンシャフトは積極的な活動を行い、その勢力は拡大の一途を辿りました。

1817年には、宗教改革300年を記念してヴァルトブルク城で盛大な祝祭が開催されました。しかし、この祝祭の一部が過激な行動に発展したことに、メッテルニヒは強い懸念を抱きました。翌年には、各地の学生団体が連携を強める動きが見られ、メッテルニヒの懸念はさらに増大しました。

そして1819年3月、事態は大きく動き出します。急進的なブルシェンシャフトのメンバー、カール・ザントが、保守的な劇作家アウグスト・フォン・コツェブーを暗殺するという衝撃的な事件が発生しました。ザントは逮捕、斬首刑に処せられましたが、この事件はドイツ全土に衝撃を与え、ブルシェンシャフトの危険性を改めて認識させることとなりました。

メッテルニヒはこの機を逃さず、ドイツ連邦を構成する主要10ヶ国の代表をカールスバート（現在のチェコ・カルロヴィ・ヴァリ）に招集し、ここでカールスバート決議が採択されたのです。

カールスバート決議の内容：自由を抑圧する三本の矢

カールスバート決議は、大学法、出版法、捜査法の三つの法案から構成されていました。これらの法案は、ドイツ連邦議会に提出され承認されましたが、その内容は自由主義的な運動を徹底的に抑圧することを目的としていました。

大学法: 学生による秘密結社を禁止し、大学当局による厳格な監視を義務付けました。これは、ブルシェンシャフトのような学生運動の芽を摘み取ることを目的としていました。
出版法: 一定のページ数以下の全ての出版物に対して検閲を義務付けました。これにより、自由な思想や意見の発表を著しく制限することとなりました。
* 捜査法: マインツに革命的陰謀を捜査・監視する特別委員会を設置しました。この委員会は、自由主義・ナショナリズム運動に関わる者を徹底的に弾圧するために活動しました。

これらの法案は、ドイツ連邦結成当初の規約を逸脱しており、連邦を保守的・反動的な方向へと転換させるものでした。

カールスバート決議の衝撃：自由への抑圧と連邦の実態

カールスバート決議と、それに続くマインツの捜査委員会による活動は、ブルシェンシャフト運動を壊滅状態に追い込みました。進歩的な立場をとる大学教授や改革派の政治家も多くが職を失い、左遷されました。その中には、シュタインやグナイゼナウといった著名人も含まれていました。

さらに、この決議はドイツ連邦の実態を浮き彫りにしました。主要数ヶ国による協議で結論が決まっており、小邦国の意見は事実上無視されていました。これは、ドイツ連邦が対等な諸邦の連合体ではないことを明確に示すものとなりました。

カールスバート決議の影響は政治のみに留まりませんでした。ウィーンを中心に劇場活動にも制限が設けられ、シューベルトの劇作品などが検閲を受け、改題や上演禁止を余儀なくされました。芸術活動にも暗い影を落とす結果となりました。

カールスバート決議は、1848年革命後の1848年4月2日に廃止されましたが、その影響は長くドイツ社会に刻み込まれることとなりました。この決議は、自由主義とナショナリズム運動の弾圧という歴史的転換点であり、ドイツの歴史を語る上で欠かすことのできない重要な出来事です。

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