カール・ウーズ

カール・リチャード・ウーズ

カール・リチャード・ウーズ（Carl Richard Woese, 1928年7月15日 - 2012年12月30日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍したアメリカ合衆国の微生物学者です。ニューヨーク州シラキューズに生まれ、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で長年教授を務めました。彼は生物の分類体系に根本的な変革をもたらした人物として知られ、特に生物を細菌、古細菌、真核生物の三つの「ドメイン」に分ける、現在主流となっている「三ドメイン説」の提唱者として名を馳せました。

来歴

ウーズは学士課程でアマースト大学に進み、数学と物理学という、一見生物学とは異なる分野を専攻しました。その後、エール大学大学院で微生物学へと研究の焦点を移しました。物理学や数学で培われた論理的な思考やデータ解析能力は、彼の革新的な生物分類学研究に大いに活かされることになります。

画期的な研究と三ドメイン説

ウーズの最大の功績は、分子生物学の手法を用いて生物分類学に新たな道を開いたことです。彼はリボソームRNA（rRNA）、特に16S rRNAという特定の遺伝子の配列情報が、生物種間の進化的な関係性を調べる上で非常に有効であることに着目しました。当時の生物分類は、主に生物の形態や代謝経路といった観察可能な特徴に基づいて行われていましたが、ウーズは遺伝子の類似性を直接比較することで、より客観的で進化の歴史を反映した分類が可能になると考えたのです。

彼は世界中の様々な環境から採取した多様な微生物のrRNA配列を解析し、そのデータに基づいて生物間の系統関係を分子レベルで詳細に調べ上げました。この遺伝子解析から、彼は生物を23の門に分類し、進化的な分岐を示す系統樹を描き出しました。そして、この解析結果に基づき、生物の最も高次の分類単位として、「細菌（Bacteria）」、「古細菌（Archaea）」、「真核生物（Eukarya）」という三つのグループ、「ドメイン」を提唱しました。これが1990年に発表された「三ドメイン説」です。彼は、それまで細菌（原核生物）の一部と考えられていた一群の微生物が、遺伝子情報の上で細菌や真核生物とは大きく異なる独自の系統を形成していることを発見し、これらを「古細菌」として独立したドメインに位置づけました。この発見は、地球上の生命の多様性と進化に関する当時の理解を根底から覆すものでした。

三ドメイン説に先立ち、ウーズは1977年に、生物を動物、植物、菌類、原生生物、真正細菌、古細菌の六つの界に分類する「六界説」も提唱しています。これも古細菌を独立した界とする点で画期的であり、三ドメイン説への重要な布石となりました。

また、彼は生命の起源に関する理論にも貢献しており、生命が誕生した初期の地球において、遺伝情報の保持と触媒機能の両方をRNAが担っていたとする「RNAワールド仮説」を1977年に考案した一人でもあります（この仮説の名称自体はウォルター・ギルバートによって広められました）。

科学界の反応と遺産

ウーズが提唱したrRNAを用いた分類法と三ドメイン説は、あまりにも革新的であったため、発表当初は科学界、特に当時の著名な生物学者たち（サルバドール・エドワード・ルリアやエルンスト・マイヤーなど）から強い抵抗と懐疑的な反応を受けました。形態に基づいた分類が長らく主流であった時代において、遺伝子配列という目に見えないデータに基づく分類は容易には受け入れられず、彼の理論が広く認知されるまでには時間を要しました。

しかし、分子生物学技術の発展と他の研究者による追試によって、ウーズの発見と理論の正しさが次々と証明されるにつれて、三ドメイン説は次第に科学界に受け入れられていきました。現在では、この三ドメイン説は生物分類学の標準的な枠組みとして広く用いられており、教科書にも掲載されています。彼の研究は、地球上の生命の「普遍的な系統樹」の理解に革命をもたらし、微生物学、進化生物学、生態学など、幅広い分野に深い影響を与えています。

ウーズはその業績によって数多くの栄誉に輝きました。1992年には微生物学における最高の栄誉とされるレーウェンフック・メダルを受賞したほか、1997年にはセルマン・A・ワクスマン微生物学賞、2000年にはアメリカ国家科学賞、2003年にはノーベル賞の生物科学版とも称されるクラフォード賞などを受賞しています。2006年にはロンドン王立協会の国外メンバーにも選出されました。彼の功績を称え、Pyrococcus woesei、Methanobrevibacterium woesei、Conexibacter woeseiといった複数の微生物に彼の名が献名されています。

死去

カール・リチャード・ウーズは、晩年も研究活動を続け、2012年12月30日、84歳でイリノイ州アーバナの自宅にてその生涯を閉じました。

彼の遺した三ドメイン説とrRNA系統解析の手法は、現代生物学の基礎として受け継がれており、私たちの生命の多様性とその進化の歴史に対する理解を深める上で不可欠な貢献となっています。特に16S rRNA系統解析は、環境微生物学やゲノム科学など、様々な分野で広く応用されています。

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