カール・トーマス・モーツァルト

稀代の音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの長男として生を受けた人物、それがカール・トーマス・モーツァルトです。彼は1784年9月21日、オーストリアの首都ウィーンでこの世に生を受けました。名前の綴りについては、現代ドイツ語では"Karl"が一般的ですが、彼の生きた時代の慣習から"Carl"と表記されることもあります。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトには数人の子供がいましたが、成人するまで生き残ったのはカール・トーマスと弟のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト2世の二人だけでした。父が世を去ったのは、彼がわずか7歳の時、1791年のことです。父の死後、幼いカール・トーマスは母コンスタンツェの判断により、1792年頃にプラハへと送られることになります。彼はそこで、ギムナジウムの教授であったフランツ・クサーヴァー・ニーメチェクのもとで教育を受けました。ニーメチェクは彼に一般教養を授けるとともに、ピアノの指導も行いました。カール・トーマスは1797年までプラハで過ごしました。

プラハでの学びを終えた14歳頃、彼はイタリアのリヴォルノへ渡り、現地の商業学校で教育を受けることになりました。この時期、彼は将来ピアノの販売を手がける商人となる道を考え始めていたようです。しかし、商業教育の内容に次第に満足できなくなり、彼は新たな道を探求します。1805年の終わり頃、音楽への情熱に駆られ、彼はミラノへと赴きました。そこで、著名な作曲家フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの推薦状を手に、ミラノ音楽院の院長を務めていた作曲家ボニファツィオ・アジオーリに師事する機会を得ます。アジオーリのもとでの最初の二年間は、彼の音楽的な進歩は非常に目覚ましく、周囲からは将来有望視されていました。しかしながら、三年目に入ると、彼は音楽家としての道を断念するという大きな決断を下します。音楽の道を離れた後、彼はミラノ行政の職に就き、文官としての人生を歩み始めました。

その後、カール・トーマス・モーツァルトはロンバルディア州の中心都市ミラノで、公務員としてつつましく暮らしました。彼は自らが音楽家になることはありませんでしたが、その人生を偉大な父、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの名声を守り、後世に伝えることに捧げるようになります。家族との交流も続いており、1820年の8月から9月にかけては、弟のヴォルフガング2世がミラノを訪れています。また、1825年にはミラノで母コンスタンツェとの再会を果たしました。1836年には、健康を損なっていた母をザルツブルクに見舞い、親孝行の姿を見せています。1842年には、ザルツブルクに建立された父モーツァルトの記念像の除幕式に立ち会い、父への深い敬意を示しました。

彼は父の遺産管理と顕彰に積極的に関わりました。すでに父が所有していたハンマーフリューゲルをザルツブルクのモーツァルテウム財団に寄贈していましたが、それ以降も多額の金銭的な寄付を行い、モーツァルテウムの活動を支えました。さらに、父が遺した貴重な蔵書や楽譜なども、惜しみなく同財団に譲り渡しています。これらの寄贈は、現在のモーツァルテウムが有する貴重なコレクションの基礎の一部となっています。

カール・トーマス・モーツァルトは、1858年10月31日にミラノでその生涯を閉じました。享年74歳でした。音楽家としての才能は父に及ばず、自らは別の道を歩みましたが、彼は父の偉大な遺産を大切に守り、その名声を後世に正しく伝えるために尽力した人物として記憶されています。彼の生涯は、偉大な父の陰に隠れがちですが、モーツァルトの音楽とその歴史を守る上で重要な役割を果たしたのです。

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