カール・フランツ・リッター・フォン・シュライバース

カール・フランツ・アントン・リッター・フォン・シュライバース：ウィーン自然史コレクションの守護者

カール・フランツ・アントン・リッター・フォン・シュライバース (1775年8月15日-1852年5月21日) は、19世紀のオーストリアを代表する博物学者の一人です。彼は、現在のスロバキアのブラチスラバで生まれ、ウィーン大学で医学の学位を取得しました。しかし、彼の関心は医学にとどまらず、植物学、鉱物学、動物学へと広がっていきました。

大学卒業後、しばらくは叔父の病院で医師として勤務した後、ヨーロッパ各地の博物館を巡り、博物学に関する知識と経験を深めました。1802年にはウィーン大学で自然史と農学の助手となり、1806年にはウィーン大学の自然史コレクションの責任者に就任。このコレクションの充実発展に、彼の情熱と才能が注がれることになります。

シュライバースは、単にコレクションを増やすだけでなく、その組織的な整備にも尽力しました。彼が着任した当初、自然科学に関する書籍はわずかしかありませんでしたが、彼の努力によって、3万冊にまで膨れ上がりました。また、彼自身も熱心に隕石の研究を行い、貴重な隕石コレクションを築き上げました。彼の研究は、当時の隕石研究に大きな貢献を果たしたと言われています。

しかし、彼の生涯は順風満帆ではありませんでした。1848年、オーストリア革命において、帝国軍の砲撃によりウィーン大学の博物館が炎上するという悲劇に見舞われます。長年かけて収集し、整備してきたコレクションの大半を失ったシュライバースは、この出来事に深く落胆し、責任者としての職を退きました。幸いにも、彼の個人コレクションであった隕石標本は、この大火から免れることができました。

シュライバースの博物学への貢献は、その後も長く人々の記憶に残ることになります。1847年、彼の名にちなんで、鉄隕石中に発見された新しい鉱物に「シュライバーサイト」(schreibersite、(Fe,Ni)3P) という名が付けられました。これは、ウィルヘルム・カール・リッター・フォン・ハイジンガーによって発見された鉱物です。この命名は、シュライバースの隕石研究における功績を称えるものとして、現在でも広く用いられています。

シュライバースの研究は、隕石や鉱物にとどまりません。彼は動物学の分野でも重要な研究を残しています。特に、洞窟に生息する水棲両生類であるホライモリの解剖学的研究は、彼の多岐にわたる関心の広さを示すものです。

シュライバースの生涯は、学問への情熱と、その情熱を阻む困難との闘いの歴史でした。博物館焼失という大きな挫折を経験しながらも、彼の博物学への貢献は、現在もなお私たちに様々な形で語り継がれています。彼の功績は、単なるコレクションの増強を超え、自然科学研究の発展に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。彼の情熱と努力は、後世の研究者にとって、大きな示唆を与え続けています。

もう一度検索