カール・フレデリク・フォン・ブレダ

カール・フレデリク・フォン・ブレダ（Carl Frederik von Breda、1759年 8月16日 - 1818年 12月1日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけてスウェーデンとイギリスで活躍した、著名な肖像画家です。

画家の家系に生まれて

ブレダは1759年、スウェーデンの首都ストックホルムに生を受けました。彼の家系はブラバント地方（現在のベルギー・オランダ国境地域）をルーツに持ち、姓のブレダも同地の町に由来すると考えられています。曾祖父のピーテル・フォン・ブレダは17世紀後半にスウェーデンに移住した画家であり、祖父のルーカス・フォン・ブレダ（1676-1752）も成功した肖像画家でした。また、同名の父ルーカス・フォン・ブレダ（1726-1799）は美術収集家として知られるなど、ブレダ家は芸術と深い関わりを持つ一族でした。

アカデミーでの研鑽

1778年、ブレダはストックホルムのスウェーデン王立美術アカデミーに入学し、当時の有力な肖像画家であったローレンツ・パシュの指導のもとで絵画を学び始めます。アカデミーではその才能を早くから認められ、1780年には早くも展覧会で賞を獲得し、1784年には最高賞である金賞を受賞するなど、優秀な成績を収めました。この時期には、後の国王カール13世となるセーデルマンランド公の妃、シャルロッテの肖像画を手掛けるなど、将来を嘱望される存在となります。その後もグスタフ3世やグスタフ4世アドルフといった歴代国王の肖像を描いています。

イギリスでの活躍

彼のキャリアにおける重要な転換期は、1787年夏のイギリスへの渡航でした。ブレダはロンドンの中心部、セント・ジェームズ・ストリートに居を構え、1796年秋まで約9年間、肖像画家として活動しました。このロンドンでの滞在中、彼は同時代のイギリスを代表する肖像画家、ジョシュア・レノルズ卿の画風から多くを学び、自身のスタイルに取り入れたとされています。

イギリスにおけるブレダの顧客層は多岐にわたりました。特に注目されるのは、奴隷制度廃止運動の主要な推進者たち、例えばトマス・クラークソンやジェームズ・ラムゼー、そしてスウェーデン出身の奴隷制度廃止論者カール・ベルンハルト・ヴァドストレームなどの肖像を描いたことです。また、イギリス滞在中の1791年には、スウェーデン王立美術アカデミーの会員に選出される栄誉を得ています。

1792年の初夏には短期間パリに滞在していますが、活動の拠点はあくまでロンドンでした。同年のイギリス滞在中、彼はバーミンガムを中心に活動していた知的交流団体、ルナー・ソサエティのメンバーと親交を結び、その肖像を描く機会を得ました。著名な発明家ジェームズ・ワットや、実業家のマシュー・ボールトン、博物学者のウィリアム・ウィザリング、化学者・思想家のジョゼフ・プリーストリーなど、時代の最先端を行く科学者や思想家たちの姿をキャンバスに留めています。これらの作品は、当時のイギリスにおけるブレダの評価の高さと、幅広い人脈を示しています。

スウェーデンへの帰国と晩年

1796年、ブレダはスウェーデン本国から呼び戻され、王立美術アカデミーの教授に任じられました。これにより、彼はスウェーデン美術界の中心人物としての地位を確立します。帰国後も精力的に制作を続け、学者ニルス・フォン・ローゼンシュタインや、スウェーデン王立歌劇場に来演したイタリア人オペラ歌手テレサ・ヴァンドーニの肖像などを描きました。特にヴァンドーニの肖像画は、彼の代表作の一つとして高く評価されています。

画家、そして教育者としてスウェーデンの美術界に貢献した功績が認められ、1812年には国王カール13世によって貴族に叙せられました。これは、画家としては異例の栄誉と言えるでしょう。カール・フレデリク・フォン・ブレダは、スウェーデンとイギリスという二つの国で、王侯貴族から時代の最先端を担う思想家や科学者に至るまで、多くの人々の姿を描き残し、1818年にその生涯を閉じました。彼の作品は、両国の肖像画の伝統に影響を与えつつ、彼独自の様式を確立したことを示しています。

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