カール・ベッカー

カール・ハインリヒ・エミール・ベッカー

カール・ハインリヒ・エミール・ベッカー（1879年9月14日 - 1940年4月8日）は、ドイツ陸軍の軍人であり、優れた弾道学者および兵器研究者でもありました。最終的には砲兵大将にまで昇進し、陸軍兵器局の最高責任者を務めましたが、その生涯は波乱に富んだものでした。

若年期から軍歴の始まり

ベッカーは1879年、ドイツのシュパイアーで誕生しました。地元のギムナジウムで基礎教育を修了した後、1898年7月にバイエルン王国軍の第2砲兵連隊に入隊し、軍人としての第一歩を踏み出しました。1905年には結婚し、後に二人の息子をもうけています。軍でのキャリアを深めるため、1906年から1909年にかけてベルリン・シャルロッテンブルク軍事技術アカデミーで学び、軍事技術に関する高度な知識を習得しました。アカデミー修了後は、著名な弾道学者カール・クランツの助手として2年間勤務し、この分野での専門性を高めました。

第一次世界大戦と戦間期

1911年、ベッカーは砲兵試験委員会に所属することになります。1914年に第一次世界大戦が勃発すると、大尉として強力な42cm砲部隊の指揮官を務めました。戦局の進展に伴い、1916年には再び砲兵試験委員会の職務に戻りました。第一次世界大戦の終結と共に砲兵試験委員会は解散しますが、ヴァイマル共和国軍が再編される中で、ベッカーは新設された武器監察部の部長に任命され、戦後ドイツ軍の兵器開発・評価における中心人物の一人となりました。

この時期、ベッカーはさらなる学術的探求を続けました。1919年から1922年にかけ、ベルリン・シャルロッテンブルク技術大学で化学を学び、工学博士号（Dr.-Ingenieur）を取得しています。これにより、彼は実務経験に加え、高度な学術的素養も身につけることになりました。1922年に少佐に昇進した後、武器監察部は陸軍兵器局へと改組され、ベッカーは1926年から弾道部および弾薬部長を務めるなど、要職を歴任しました。その後も順調に昇進を続け、1927年に中佐、1930年には大佐となりました。

第三帝国下での活動と兵器開発

1932年、ベッカーは陸軍兵器局の試験部長に転任しました。同年、学術分野での功績が認められ、プロイセン州文化省よりフンボルト大学の軍事学名誉教授に任命されています。さらに、1933年3月には母校であるシャルロッテンブルク技術大学で軍事技術の教授に就任し、一般技術学部（後に軍事技術学部と改称）の学部長を務めました。ここでは新設された物理工学の講義も担当するなど、教育者としても多大な貢献をしました。同年、少将に昇進しました。

ベッカーの最も重要な貢献の一つは、未来の兵器システム、特にロケット兵器の研究開発に対する強力な推進でした。1929年以降、陸軍兵器局の研究部長として、彼はロケット技術の実用化に大きな可能性を見出し、開発計画を主導しました。彼の指導の下、1931年の開発計画に基づき、翌1932年には液体燃料ロケット「ミラク3」の試作機が開発されました。これはドイツにおける本格的なロケット開発の初期段階における重要な成果でした。さらに、1936年にはドイツのロケット開発拠点となるペーネミュンデ陸軍実験場の設立にも深く関与し、その建設を推進した中心人物の一人となりました。

1936年10月には砲兵大将に昇進し、軍人としての最高位に達しました。そして、1938年3月にはクルト・リーゼの後任として、ドイツ軍の兵器開発・調達を統括する陸軍兵器局長に就任しました。

最期

第二次世界大戦が始まった1940年4月、ドイツ軍は弾薬供給の深刻な不足に直面しました。陸軍兵器局長として、ベッカーはこの問題の責任を問われることになります。軍部からの強い圧力と批判に直面し、精神的に追い詰められた結果、1940年4月8日に自らの命を絶ちました。その死後、シャルロッテンブルク工科大学前の広場では国葬が執り行われ、彼の功績と悲劇的な最期が多くの人々に記憶されることとなりました。

ベッカーの生涯は、ドイツの軍事技術、特に初期のロケット開発史において重要な位置を占めています。彼の研究開発への情熱と推進力が、後にV-2ロケットへと繋がる技術基盤の構築に大きく貢献したと言えます。また、彼の名前を冠した自走臼砲「カール」も存在しており、その技術者としての影響力を示しています。

関連事項

* カール自走臼砲

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