カール1世 (オーストリア皇帝)

カール1世：ハプスブルク家最後の皇帝、福者への道

カール1世（1887年8月17日 - 1922年4月1日）は、オーストリア＝ハンガリー帝国最後の皇帝であり、ハンガリー国王、ボヘミア国王でもありました。第一次世界大戦という激動の時代に即位し、帝国の崩壊と自身の亡命という、波瀾万丈な生涯を送りました。カトリック教会の福者でもあります。

生涯

幼少期と皇位継承

1887年、カールはペルゼンボイク城で、オットー・フランツ大公とマリア・ヨーゼファの息子として生まれました。当初、皇位継承とは縁遠い存在でしたが、1889年のマイヤーリンク事件でルドルフ皇太子が死去し、伯父のフランツ・フェルディナント大公が皇位継承者となると、カールにも帝位が近づきます。1906年に父が早世したことで、カールはフランツ・フェルディナント大公に次ぐ第2位の継承者となりました。

結婚

1911年、カールはツィタ・フォン・ブルボン＝パルマと結婚しました。フランツ・ヨーゼフ1世は当初、自身の孫娘をカールに娶らせようとしましたが、マリア・ヨーゼファの反対で実現せず、最終的にツィタとの結婚を認めました。結婚式の際、ローマ教皇ピウス10世は「彼は次のオーストリア皇帝になるでしょう」と述べたと言われています。

第一次世界大戦と即位

1914年、サラエボ事件を契機に第一次世界大戦が勃発。カールは開戦の危険性を認識していましたが、政治の中枢から遠ざけられ、意見を求められることはありませんでした。1916年、フランツ・ヨーゼフ1世の崩御により、カールは皇帝カール1世として即位しました。

皇帝として

カール1世は、即位後ただちに宮廷改革に着手し、旧弊な儀礼を廃止、現代的な機器を導入するなど、刷新を図りました。また、ハンガリー人の官吏に母国語での会話を許可するなど、民族融和にも努めました。しかし、第一次世界大戦の戦況は悪化の一途をたどり、帝国の食糧事情も逼迫していました。

ジクストゥス事件

1917年、カール1世は、単独講和を目指し、皇后ツィタの兄であるジクストゥス公子と密かに交渉を行いました。しかし、この秘密交渉はフランス首相クレマンソーによって暴露され、カール1世の権威は失墜。同盟国ドイツからの信頼も損なわれました。

帝国の崩壊と「国事不関与」宣言

1918年、同盟国の戦線が崩壊し、帝国内の各民族が次々と離反。帝国は崩壊へと向かいました。カール1世は、連邦制への国家改造を宣言しましたが、事態を打開するには至りませんでした。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の退位を受け、オーストリア社会民主党はカール1世にも退位を要求。カール1世は「国事不関与」を宣言し、スイスへ亡命しました。

ハンガリー国王への復帰運動と亡命

スイスに亡命後、カール1世は二度にわたってハンガリー国王への復帰を試みましたが、いずれも失敗に終わりました。1921年、イギリス軍艦によってポルトガル領マデイラ島へ流され、困窮の中で1922年に病死しました。

列福

カール1世は、カトリック教会への篤い信仰心と、平和への貢献が評価され、2004年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世によって列福されました。20世紀の国家元首としては初めての福者となりました。

カール1世は、激動の時代に翻弄されながらも、平和を願い、信仰を貫いた君主でした。その生涯は、ハプスブルク家の栄光と没落を象徴するものとして、今もなお多くの人々の心を捉えています。

もう一度検索